シリーズ地域農業振興へ 生きいき農業高校黒毛牛の受精卵供給に一役バイオ技術の研究が実を結んで長野県上伊那農業高校の取り組み全国的に農業高校の統廃合が進んでいます。原因は、国の農業つぶしと都道府県の財政難など。しかし、地域や教職員の努力のなかで、農業の後継者を育てるとともに、地域農業に一役買っている、すばらしい取り組みを行っている農業高校がいくつもあります。
上農(じょうのう)と呼ばれて親しまれている長野県上伊那農業高校は、東に仙丈ヶ岳、北岳などの南アルプスの勇壮な峰々を眺望する南箕輪村にあり、一八九五年に開校、今年で創立百十年を迎える歴史のある農業高校です。 農業教育の実践的な活動を通じた人づくりをめざし、これまでに一万六千人以上の卒業生を送り出してきました。いま、四百八十人余りの生徒が、四つの学科―生産環境科、園芸科学科、生物工学科、緑地工学科で学んでいます。
「酪農応援したい」と実験重ね上農では、食・農・環境をキーワードに、地域に開かれた幅広い活動をそれぞれの学科で進めています。その一つが、生物工学科の動物バイオコースで三年前から進められている黒毛和牛の受精卵を地域の酪農家に供給する取り組みです。 上伊那の酪農家は、一九九二年当時には三百七十戸ありましたが、二〇〇二年には百六十戸まで減少してしまいました。 指導にあたっている境久雄先生(42)は、十余年もの間、「厳しい経営環境の中で、がんばっている上伊那の酪農家を応援したい」と思い、上農をこの地域の受精卵供給基地にしようと、生徒たちとともに実験を重ねてきましたがなかなかうまくいきませんでした。そこで、地域の人たちの力を頼って実施することにしました。
力づよい後継者も生まれたそして、二〇〇一年八月、学校で飼育する黒毛和牛のドナー牛から採卵が行われ、これまでに直径二百ミクロンの卵を四百個以上取り出しています。現在では、上伊那地域の酪農家三十二戸が利用し、上伊那地域で生まれる年間百頭の受精卵移植による黒毛和牛のうち、半数近くが上農の受精卵から「じょうのう○」号という名で生まれるまでになりました。しかし、ドナー牛はエサの管理などをきちんとしないとよい卵を排卵できません。生徒たちは、採卵・移植といった高度な最先端の技術を学びながら、飼育管理・人工授精の技術を休日や早朝にも登校して身に付け、農業の現場に近い環境で学んでいます。 そしてこの春には、この動物バイオコースを卒業した生徒が、実家の酪農を継ぐ決心をして、農業の後継者も生まれています。
乳価低迷続く酪農家は「貴重な副収入」と喜ぶ黒毛和牛の子牛(生後八〜十カ月で出荷)は、ホルスタインより高い市場価格(約四十万円/頭)で取引されています。なかには、五十八万五千円の高値がついた子牛もありました。上農の取り組みは、乳価が低迷している中で、酪農家に貴重な副収入をもたらしてくれると、喜ばれています。
自治体、 JAなども連携・協力また、この取り組みには、採卵を担っている地方事務所の獣医師や、検卵・移植をするJA全農ET(受精卵移植)センター、そして酪農家とのパイプ役になっているJA上伊那など、それぞれの役割を分担しながらさまざまな人がかかわり、組織の枠を越えて上農と連携しながら実現したもので、「農業高校が地域に受精卵を供給する例は、全国的にも聞いたことがない」と言われています。今年十二月には、いよいよ上農の受精卵から生まれた牛が食用の肉になり消費者のもとに届きます。境先生たちは、どの受精卵がどこで育てられ、解体後いくらの価格がついたのか、追跡調査を通して、高く売れる系統を確立し、将来は「上農牛」という上伊那牛のブランド化を夢見ています。
(新聞「農民」2004.5.31付)
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[2004年5月]
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