「農民」記事データベース20040405-630-08

演劇

劇化の思いは“再生”

俳優座創立60周年記念「足 摺 岬」


 劇団俳優座は創立60周年記念公演として田宮虎彦原作の「足摺岬」を上演します。

 物語は昭和の初期。絶望した帝大生・間宮龍彦は、みずからの命を絶とうと足摺岬を訪れます。胸の病が再発し、清水屋という遍路宿に投宿することになります。病の淵に苦しみ、死に向き合う間宮のかたくなな心を開かせてくれたのは、清水屋の人たちでした。同宿の老遍路、薬売りや宿の主人おちせ、娘の八重などのやさしさでした。彼らもつらい傷跡を背負いながら、親身になって励ましてくれたのでした。

 脚本の堀江安夫は短篇の原作に、『絵本』『菊坂』なども取り入れながら登場人物をふくらませています。堀江さんは「劇化の思いをひとことでいうなら、それは“再生”ということにつきるかも知れません。主人公の間宮には、常に死の影が色濃く付きまとっています。いや、死を妄想することが、彼の唯一の拠り所といっていいのかも知れません。しかし、いかに死を思うことが安らぎであっても、生身の間宮にとっては、それは想念でしかありません。想念、魂が病んでいるのです。それにしても、この物語の時代と私たちが生きる時代との、何と相似形なことでしょう。喜んでいいのか悲しむべきなのかわかりませんが、この多くの共通点の中に、私は原作『足摺岬』の普遍性をみるような気がします」といいます。演出は多くのチェーホフ作品を手がけてきた袋正が担当。

 主役の間宮に扮するのは若手の渡辺聡さんです。「田宮作品との出会いを機に、一つひとつのことをもう少し深く考えて見たいという思いにとらわれています。そして、もののなかった時代の飢餓感がどんなものであったのか、まだまだ甘ったれの自分が、このシビアな世界にどこまで近づくことができるのか、頼れる先輩方の中で、ともかく頑張るしかありません」と語ります。出演は浜田寅彦、児玉泰次、斎藤深雪、早野ゆかりほか。土佐清水市制施行50周年記念でもあります。

(鈴木太郎)

*4月15日〜25日、東京・六本木・劇団俳優座稽古場5F、28日〜5月2日、両国・シアターχ。連絡先=劇団 電話03(3405)4743

(新聞「農民」2004.4.5付)
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2004年4月

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