「農民」記事データベース20040405-630-04

遺伝子組み換え規制

カルタヘナ法の問題点《2》

塚平 広志


 議定書を換骨奪胎、バイオ推進をさまたげない範囲でと、消極姿勢

 日本政府の関係省庁が「カルタヘナ法」の適用範囲をできるだけ狭くするという消極的姿勢をとっている背景には、小泉内閣が「バイオテクノロジー(BT)戦略会議」を発足させ、官民あげてバイオ大国化をめざしていることがあります。

 農水省にも「生物多様性へのリスク管理をあまり厳しくすると、遺伝子組み換え農作物などの開発・利用が事実上困難になる。リスク管理は遺伝子組み換え農作物などがもたらすベネフィット、リスク管理に伴う社会的費用などを考慮する必要がある」(「環境リスク管理に関する懇談会報告」)といった考え方が根底にあります。

 このため遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンが、カルタヘナ法の施行を前に行った公開質問状に対する院内集会(二月十七日)での農水、環境両省の回答は、生物多様性条約やカルタヘナ議定書の積極的な内容を換骨奪胎し、本気で生物多様性の保全を考えているのか疑わしいものでした。

 野性種だけの保護では生物多様性保護は、絵に描いた餅

 最大の問題点は、生物多様性確保の適用範囲や環境リスク評価の対象を野性動植物に限定し、農業分野の栽培作物を除外したり、添え物にしようとしていることです。

 そもそも生物の多様性の大前提は、野性動植物、栽培農作物、飼育動物などすべての生物種のなかに多様な種が存在し、共生し、存続することです。生物多様性条約第二条でも「生物多様性とは、生息または成育のいかんを問わないすべての生物」と規定しています。それを「自然の生息地でのみ存続を繰り返している野性種だけを遺伝子組み換え生物の悪影響から保護する」(環境省)といったことが、果して可能なのだろうか。日本のように狭い国土で、集約的農業が行われている所では、水田や畑などで栽培され、長い歴史のなかで育成されてきた多様で優れた在来品種を含めないと、生物多様性保護などといっても、絵に描いた餅にすぎません。

 さきの院内集会でも消費者から、日本の「カルタヘナ法」は畑のなかの雑草(野性種)だけは保護しても、農作物は保護しない「雑草保護法」になってしまう、といった指摘がありました。

 この点、EUの規制法(「遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する欧州議会および理事会指令」)では、生物多様性のなかに農業分野の栽培作物や農業技術まで含めており、取り組みの姿勢が日本とは大きく異なっています。

 農水省では、栽培作物は「別の方法で保護していく」として、独自の指針などを作っています。これは「カルタヘナ法」に縛られず、ゆるい許容基準を先手を打って決め、遺伝子組み換え作物の栽培実験や使用を推進しようというのが狙いといえます。その一つが二月二十四日に策定し、独立行政法人などに通知した「第I種使用規定承認組換え作物栽培実験指針」でしょう。

(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン運営委員)

(新聞「農民」2004.4.5付)
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2004年4月

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