「農民」記事データベース20040315-627-01

“野菜売れない、種まきやめるしか”
“行政が立ち入り検査していたら…”

鳥インフルエンザ 農民連が現地調査

京都・丹波
生産者を激励、不安・要望きく

 京都府丹波町にある養鶏場で発生した高病原性鳥インフルエンザは近隣の養鶏業者と地域住民、農家に大きな苦痛を与えています。こうしたなか、農民連食品分析センターの石黒昌孝所長、京都農民連の佐々木幸夫会長らが三月三日現地を訪れ、地域の住民に果物を差し入れるとともに、丹波町農民組合の生産者を激励し、不安や要望などを聞きました。


作る意欲失い、風評の長期化を心配

生産者が安心できる対策を

 鳥インフルエンザの発生が発覚した二月二十七日以降、それまで静かだった農村地帯は一気に騒然となりました。五十三戸、二百人足らずの集落に、府の関係者、警察、マスコミなどが多い時で約二千人、ヘリ数機が爆音をとどろかせて飛び交う事態。さらに風評により、丹波町内で行われている朝市の野菜が売れなくなり、市場では京都産の野菜価格が値下がりしました。

 あきらめずに作り続けよう

 養鶏場のある丹波町安井地区に住む村山寛さんは、風評被害の長期化を心配します。鳥インフルエンザの発生は、村山さんが転作田に牛フン堆肥を投入し、夏に産直で消費者に届ける黒豆の枝豆を作付ける準備を進めていた矢先でした。「風評被害で売れなくなるのなら、種まきをやめざるを得ない」と語る寛さん。

 この事態に、村山さんの奥さんは「農作業はとても張り合いがあり楽しかったのに…。お父さんが定年になり農業をしたいということで、私も退職して始めた。農業ができなくなると思うとさびしさと苦しみがある」と胸の内を話します。

 他の生産者からは、「風評被害で他の生産者に迷惑がかかるといけないので、安全宣言が出されるまで、野菜の出荷を見合わせている」、「夏になっても風評で売れないのなら、作るのをやめようと考えたり、米が売れない事態にならないかと心配。生産者が安心できるようにしてほしい」などの声も。これに石黒所長は、「あきらめることなく、ものを作り続けよう」と訴え、激励しました。

 抜本策遅れた国も責任重大

 鶏が一日に数百羽から数千羽も死んでいるのに、一週間も通報を怠り、卵と鶏を出荷し続けた浅田農産船井農場。三月三日には五キロ離れた別の養鶏場でも鳥インフルエンザが発生し、船井農場からの二次感染が疑われています。「山口県で発生した時、なぜ国は早期発見のための抜本的な対策を行わなかったのか」――同農場の犯罪性とともに、後手に回った行政の対応が厳しく問われなければなりません。

 一方で、大規模な鳥インフルエンザの封じ込めには、丹波町と近隣の市町村、府の職員が必死の対策にあたっています。丹波町農民組合では、一日も早い終結に向け、毎朝早くから夜を徹して働いている職員をはげまそうと、他県から届いた果物などを、役場や府職員組合などを通じて現場の職員に届けています。

 船井農場の巨大な鶏舎の周りには、殺菌のための石灰が真白にまかれ、時おり白い防護服に身を包んだ作業員の姿が見えます。鶏を捕まえてビニール袋に入れ、炭酸ガスで殺処分するのは大変な作業で、大量の死亡鶏が放置された鶏舎内はせい惨だと言います。

 この農場が京都府に登録していたのは二十万羽。しかし、実際には二十六万羽が飼われ、他に三千二百トンもの鶏フンがあると言われています。

 衛生管理を怠る感染農場

 「あんな汚いところは他にない」「鶏を運び出すゲージも洗わないまま使っているから羽がこびり付いていた」。関係者の証言で、浅田農産が衛生管理を怠っていた実態も浮かびあがって来ました。

 「起こるべくして起こったというか、そんな企業を放置してきた行政の責任もある」。こう話すのは丹波町農民組合の東昭さん。一日で千羽を超える大量死が始まる直前の二月十九日、府の家畜保健衛生所がこの農場を訪れましたが、聞き取り調査で済ませ、「異常ない」という農場側の言い分をうのみにしていました。「この時なぜ立ち入り検査しなかったのか、国が厳重に検査していれば、早期に発見できたはず」――府や国の責任も重大です。

 今までも地域環境に悪影響

 農場に近い集落には、梅雨前には白い壁が真っ黒になるほど大量のハエが飛んで来ていたといい、この養鶏場は、これまでも地域環境に影響を与えてきました。

 農民連京都産直センターの民谷清治事務局長は、「今から春に向けた田起こし作業と、は種の時期を迎える。この問題で生産者が作物を植えなくなることが一番心配。農家を激励し、不安に応える対策が必要だ」と強調します。石黒所長もこれに応え、農民連として聞き取った要望を農水省や厚労省に伝え、万全の対策を申し入れることなどを約束しました。

(新聞「農民」2004.3.15付)
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2004年3月

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