「農民」記事データベース20040308-626-01

“鳥から人、人から人へ”感染する

新型インフルエンザに変異の恐れ

鳥インフルエンザ


 「埼玉農民連の大会で、O157、BSE、鳥インフルエンザ問題について発言した

    立石 昌義さんに聞く(本庄・児玉農民センター事務局長)

 アジア、北米で猛威をふるう高病原性鳥インフルエンザ(以下、鳥インフルエンザ)。数千万羽の鶏が処分され、養鶏農家に甚大な損失を与えています。同時に、鳥インフルエンザのまん延は“鳥から人、人から人へ”感染する新型インフルエンザの発生が危惧されています。


最悪のシナリオは世界中で死者5億人も

緊急に大量のワクチン製造できる体制を

21世紀は感染症の時代 それに対する備え必要

 爆発的感染の引き金は…

 「九七年に香港で鳥インフルエンザによる死者が報告され、この時から専門家の間では、新型インフルエンザの爆発的な感染が数年以内に起こるのではないかと危惧されてきました」と話すのは、埼玉農民連の本庄・児玉農民センター、立石昌義事務局長。立石さんは、民間の研究機関で、細菌やウイルスを研究してきた専門家です。

 鳥インフルエンザは、鶏やアヒルなどに致死性の全身症状を引き起こす家畜伝染病。鶏肉や鶏卵を食べても、人が感染することはありません。しかし、ベトナムやタイでは、病鳥との濃密な接触や内臓・排泄物に触れたことが原因で、人が鳥インフルエンザに感染したと見られています。

 今までのところ、鳥インフルエンザの感染者・死者は、公表されたところでは数十人にとどまっています。これがなぜ「爆発的な感染」の引き金となるのか――。

 「インフルエンザウイルスは絶えず遺伝子レベルで変異しています。通常のインフルエンザもすべて鳥由来でした。“鳥から人へ”の感染をくり返すうちに、ウイルスが“人から人へ”の感染能力を獲得する可能性は大いにあるのです」と立石さん。

 ひとたび新型流行すれば

 そして、もし新型インフルエンザの大流行が起これば…。昨年十二月に出版された『感染症とたたかう』(岩波新書)では、「最悪のシナリオとして、地球全体で感染者三十億人、重症患者十五億人、直接死亡五億人が出るとの試算もある」と指摘されています。

 過去にも、新型インフルエンザが大惨事をもたらしたことがあります。一九一八〜一九年に大流行した「スペインかぜ」(A型インフルエンザ)は、世界中で五億人以上の感染者と二千万〜四千万人の死者を出し、第一次世界大戦の戦死者を大きく上回りました。

 当時と比べて現代は、人口が三倍に増え、都市への集中が進み、交通手段もはるかに発達しています。またたく間に世界中に伝播することが危惧され、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)の三機関は今年一月、鳥インフルエンザは「人間の健康に対する脅威」とする共同声明を発表しました。

 WHOは〇二年、国際的な監視体制の拡充やワクチン政策の推進、新型インフルエンザ対策などを柱とする「世界インフルエンザ計画」を策定。インフルエンザ対策を重要な課題にあげています。こうした中で、立石さんが危惧するのは、日本のワクチン開発・製造の問題です。

 ワクチン開発に特許のしばり

 現在、日本で年間約千五百万人分製造される通常のインフルエンザワクチン。しかしそれは、中小の四つの研究所やメーカーが担っています。ひとたび新型インフルエンザが流行すれば、それに合った大量のワクチンを緊急に作り、国民に供給しなければなりません。果たしてそれが可能かどうかという問題です。

 「まずワクチン開発には遺伝子技術を用いますが、そのほとんどがアメリカなど外国の民間会社が特許として押さえており、莫大な費用がかかると言われています。ワクチンの製造も厳重な設備が必要で、また有精卵の供給にも不安があります」と、ワクチン製造にも携わってきた立石さんは指摘します。

 耐性をもった微生物を生む

 二十一世紀は、「感染症が人類の脅威となる時代になるのでは…」と恐れられています。それは一つには、未開の地に分け入っていく開発が、未知のウイルスや細菌、風土病などと遭遇する危険があるため。もう一つは抗生物質の乱用が、それに耐性をもった微生物を生み出す可能性があるためです。

 立石さんはこう語ります。「病原性大腸菌O157は、抗生物質などの薬剤によって大腸菌に急激な進化が起こり、強い病原性をもったものとの専門家の指摘があります。こうした危険に対して、私たちは正確な情報と、確かな備えを持たなければなりません」。

(新聞「農民」2004.3.8付)
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2004年3月

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