農民連女性部総会 三上満さんの講演今こそ平和憲法生かし、日本農業の展望を宮澤賢治の世界から学ぼう
みなさん、こんにちは。 宮澤賢治の「二十六夜」という童話集の「フクロウの夜」という話をご存じですか。人間の子どもがフクロウをひどい目に合わせて放り出し、フクロウの部落では報復にわき立つ。でもその時にフクロウのお坊さんが「いやいや、それはいかぬじゃ、報復では暴力の連鎖は絶えないぞ」と言って皆をなだめるんですね。フクロウたちは大泣きしながらお坊さんの言葉を受け入れる決断をするんですが、それを優しく慰めてくれるかのように、中空に三尊の仏が現れて暖かい慈悲の光を注いでくれるという話です。 「9・11」の後、マスコミも総動員してブッシュ大統領は報復戦争に乗り出しました。歴史に「もし」はありませんが、あの時、アメリカが報復しないとなれば、その時に現れてくるのは三尊である必要はなくて、国連や世界の国民がその決断を「よくやった」と褒める、今はそういう時代に来ていると思うのです。 報復による暴力の連鎖を断つことがもっとも大切なこの時代に、絶対平和主義者だった賢治の思想が照らしているものは、まさに「憲法九条を守れ」ということにあるのではないかと思います。
「ダメな者 はいない」賢治は農業高校の教師でもありましたし、農民たちを集めて「羅須地人(らすちじん)協会」というボランティア私塾のようなものを開いていましたが、その根本は「ダメな者はいない」という思想でした。たとえばテストをやる時「無理して頑張らなくてもいいですよ。六十点とれば十分です。六十点以下でもまた勉強して、また試験しますからね」と言って配る。つまり「何十点とれれば何番」などという話でなく、農民としてちゃんと仕事ができるかが大切なんですね。 今の日本の子どもたちが一番直面している困難はそこです。教育課程審議会の元議長が「できるヤツを限りなく伸ばすのがこれからの教育で、できない非才・無才にはせめて文句言わずに働く実直な精神だけを養えばいい」というようなことを書いていますが、これこそ今の教育の象徴です。
農業的実践はすさまじい賢治自身は資産家の御曹司でしたが、それを振り捨てて村に入って、自分でも田畑を耕しながら農民の心になりきろうとしました。そして身につけた土壌学や肥料学、気象学などの科学を農業に生かし、文化や芸術が農村に育つように活動を開始しました。それからの賢治の農的実践はすさまじいものがあります。 この実践の中から賢治は、本当の人間として生きていくには生産的な人間にならなくてはならない、自然や風や水などと深く関わって生きて行かねばならないと考えたのです。自分で田を耕す人々の気高さや向上心に触れ、本当の農民に出会うなかで、自分の生き方を決めていったのだと思います。
作ってこそ農民の精神そういうことから考えると、今の農業を担っている兼業農家を「ガーデニング農家」などと言う自民党農政は本当に許せない、反賢治的です。豊かな水があり、棚田や谷地などすばらしい環境と仕組みを持っているのが日本の農業です。そこに自分で営農し、計画し、家族でやっていける、そういう人たちが村落ごとに共同する――。これが賢治が描いた本当の農村「ポラーノの広場」でなくて何でしょうか。 ところが経団連の奥田会長は「何千年も続いてきた家族農業などというビジネスモデルは変えなければならない」などと言い、自民党は献金欲しさに目茶苦茶な米改革で家族農業を壊そうとしている。「自動車栄えて、農業亡ぶ」でいいのか。今こそこんな農政には怒りの声を上げなければならないと思うのです。 農民連の皆さんの言うように、「作ってこそ農民」の精神で、産直や準産直などもっともっと知恵を出し合って広めていってほしいと思います。 (子どもの権利・文化全国センター代表委員)
(新聞「農民」2004.3.1付)
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[2004年3月]
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