「農民」記事データベース20040216-623-06

タイ政府の隠ぺいで被害拡大

鳥インフルエンザ

国民から強い批判の声


 昨年十一月からタイ国内各地で鶏の大量死が続発しており、政府は「家きんコレラ」としていましたが、感染者や死者が出るにおよんで、一月下旬になってようやく鳥インフルエンザと認めました。

 最大輸出先の日本では、「家きんコレラ」や「ニューカッスル病」であれば、輸入制限は発生地から五十キロ圏内に限定されますが、「鳥インフルエンザ」では、発生国からの輸入が全面禁止になります。そのためにタイ政府は、発生以来二カ月にわたって病名を偽り続けたのではないかとの疑念がもたれています。

 いずれにせよ、対策が大幅に遅れたせいで、鳥インフルエンザは二月二日現在、全国七十六県中三十五県に拡大、死者も十人に増えています。
タイにおける鳥インフルエンザの推移
(2004年1月半ば以降の現地紙報道から)
16日 鶏の大量死はインフルエンザではないと、タイ政府が国際機関(WHO)の調査を拒否。消費者団体が鶏の病名隠ぺいで政府に抗議。国内でコレラを理由に鶏移動禁止。
20日 タイ農業省高官「タイに鳥インフルエンザなし」と強調。
22日 政府が鶏対策を発表。
23日 日本が鶏肉輸入の一時停止。スパンブリ県で、11月以来死んだ養鶏農家から半径5km以内で強制処分を実施。タクシン首相も現地へ。
25日 野党が政府の隠ぺい工作追及。政府は「鳥サミット」を提案。養鶏農家(56歳)死亡。全国24県で912万羽を処分したと発表。
26日 CP関連株など大幅下落。EUも禁輸継続。全国で闘鶏の開催中止。第2の養鶏企業サハファームの会長が拡大計画延期と従業員解雇について発言。慈善財団が鶏処分が原因で失業した農家子弟への寄付金よびかけ。
27日 内閣が鶏などの補償予算29.9億バーツ(約90億円)を承認(1羽40バーツ)。「鶏肉を70℃以上で調理すれば対日輸出できる」と政府高官が発言。バンコク市内のホテル・レストランから鶏が消える。全国で川の水質検査開始。
28日 バンコクでも鶏とアヒル発病、全国25県に。中部で男児死亡、母親も1週間前に死亡していた。「死んだ鳥を見つけたらすぐ1555番へ」ホットライン開設。WHOが専門家派遣。
29日 CPグループのタニン会長「CPの鶏は室内農場だから安全」と強調。11月発生と同時に予防措置したと発言。「鳥サミット」バンコクで開催、タイ・ベトナム・日本・韓国・カンボジア代表が出席、安全性に問題ないと発言が続いたが、昼食会に鶏料理がはずされたと報道された。
30日 CPグループが契約農家に鶏の処分を指示(スパンブリ県だけで20万羽)処分費用と補償金支払いを約束。チュラロンコーン大学教授が畜産局の対応の遅れをきびしく批判。発生地は31県に拡大。バンコクで動物園閉鎖。バンコク市内の鳩を処分。チャチュンサオ県で鶴にも感染を確認。株式市場で売り圧力とまらず。鶏肉丼(カウマンガイ)の代用で豚肉丼(カウマンムー)がひろがる。
2月2日 畜産局が鶏肉輸出への影響を考えて病名を隠ぺいしたことを認める。
(注)バンコク週報の日刊ニュースその他現地報道をもとにとりまとめた。日付は、報道日で発生日とは異なる。

 商業大臣はCP関係者

 タイ政府の中枢、内外での農畜産物取引を担当する商業大臣には、昨年十一月から、タイで最大のアグリビジネス、CPグループの関係者(タニン会長の姻せき)が就任。その影響から政策がゆがめられたとも報道されています。

 タクシン首相は、昨年のSARS発生時に続いて今回も、鶏肉や鶏卵を食べて死者が出れば、私財から三百万バーツ(九百万円)を補償すると公言。こうした人間の命にまで値段をつける発想に、強い反発が生まれています。

 検疫緩和を日本に要求

 日本とタイのFTA交渉が、この二月中にも開始されようとしていますが、二〇〇二年の対日農産物輸出を見ると、第一位が鶏肉、二位が鶏肉調製品、三位がエビ調製品、四位がエビとなっています。そしてそのいずれも、最大の取り扱いをCPグループが握っています。

 これまでの対日予備交渉の中で、タイ側が最も重視してきたのは、「労働市場の開放」と並んで「検疫の緩和」です。この要求は、今回の鳥インフルエンザ問題の経過から見ても、日本国民の食生活にさらに重大な問題を生み出すものと言わざるを得ません。

 タクシン首相は、今年を「食品安全年」と名づけ、「世界の台所」をめざすキャンペーンを進めようとしていますが、それとは逆行する年明けとなっています。

(Y)

(新聞「農民」2004.2.16付)
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2004年2月

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