「基本計画」見直しスタート自給率引き上げ先送り 農業構造改革を加速化農水省の説明に強い懸念
「食料・農業・農村基本計画」の見直し作業が始まりました。農水省は、一月三十日に開かれた食料・農業・農村政策審議会の企画部会に、見直しの検討方向を提示。その内容は、現行の「基本計画」が掲げる「二〇一〇年度に食料自給率を四五%に引き上げる」という目標を先送りし、さらなる輸入自由化を前提にして農業の構造改革を加速化させるというもの。アメリカのBSEやアジアの鳥インフルエンザなど、“食の輸入依存”を見直すべき事態が次々と起きているもとで、国民・農民の願いに反するとんでもない内容です。
株式会社の全面参入狙う企画部会のメンバーには、日本経団連の立花宏常務、味の素の江頭邦雄社長、日本フードサービス協会の横川竟会長(すかいらーく最高顧問)が顔をそろえ、企業の利益を最優先に、FTAなど自由化を推し進め、株式会社の全面的な農業参入をねらっています。 農水省のねらいは、こうしたメンバーを集めて農業つぶしの悪政にお墨付きをもらうこと。食料自給率の引き上げは、新規の目標年度を二〇一五年に設定することで先送り。「現行の『基本計画』は、自給率を唯一の目標にしたため、政策とのかい離が生まれた」(皆川企画評価課長)と、自給率向上目標が諸悪の根源であるかのように述べて、新しい目標には、構造改革の進ちょく状況なども加えるよう求めました。
自給率の論議脇に追いやり肝心かなめの自給率向上に向けた論議をわきに追いやって、農水省が検討課題にあげたのは、(1)品目横断的な所得安定対策、(2)農業環境・資源保全対策、(3)担い手・農地制度の見直しの三つ。これらは、財界のシンクタンク「日本経済調査協議会」が昨年十二月にまとめた「農政の抜本改革・基本指針と具体像」と題する提言の“農水省バージョン”です。 (1)は、今ある品目別の対策をやめて、プロ農業経営にしぼって品目横断的な所得安定対策を導入しようというもの。皆川課長は、「国民的な理解を得るには、対象をしぼり込む必要がある。高いハードルを設定せざるをえない」と強調。 (2)は、その高いハードルでふるい落とされた中山間地域や中小の農家に、農業用水の管理などプロ農業経営のサポートや、「農村空間の形成」などを、主にやらせるもの。 (3)は、農地法の改悪と、株式会社の参入を一部認めた構造改革特区の全国展開が主要な論点です。
国民的な論議のなかでこそこうした農水省の説明に対して、消費者や農家、自治体の首長の委員からは、「アメリカのBSEで外食産業が大混乱になっている現状を見ても、自給率をもっと真剣に考えていかないといけない」「農水省のやるべきことは、ハードルを設定することではなく、それを乗り越えられるよう農家を支援することだ」「生産者と消費者の対立を描いて農業の規制緩和を求めたら、農村の価値は守れない」といった強い懸念が表明されました。 内容もさることながら、議論の進め方も大問題です。亀井善之農相は、「三つの課題は待ったなしで、ぜひ実現したい」と強い意欲を表明し、農水省は、二〜三月に開く三回の企画部会で課題を一つずつ消化するスケジュールを提案。しかし、一回わずか二時間、そのうち半分は農水省の説明で費やされる“暴走”会合で、まともな論議が行われるとは到底考えられません。 しかもその後は、夏に中間の論点整理、年内には最終の論点整理を行い、来年三月の審議会で基本計画変更の答申を行う予定。現行の「基本計画」が、国会での議論を通じて自給率目標を書き込んだのと比べ、今回の見直し作業はあまりに拙速で、国民を無視したものです。こんなバカげたやり方はやめて、国民的な論議のなかで、安全な食料を安定的に供給する農業・農村の姿を見定めるべきです。
(新聞「農民」2004.2.16付)
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[2004年2月]
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