「農民」記事データベース20031222-616-11

全国委員会での真嶋副会長の補足報告のうち、農業構造改革に関わる部分の大要

「鎖国」発言と農業構造改革

財界主役・“保守2大政党”体制のもと情勢に大きな変化が生まれつつある


 十二月九日に、食糧・農業・農村基本政策審議会が開かれ「食料・農業・農村基本計画」の見直しが諮問されました。

 「基本計画」は食料・農業・農村基本法にもとづくもので、五年ごとに見直しが行われることになっており、二年後の二〇〇五年三月が期限です。新しい計画を作るわけでもないのに、なぜこんなに早々と見直しに着手するのか――。

 実は、小泉首相が総選挙告示目前に、タイで行った「農業鎖国はもう続けられない。農業構造改革は待ったなしだ」という暴言に端を発します。

「農業と食糧を守れ」は“抵抗勢力”

 小泉政権は、国会解散の直後にメキシコと日本の地域自由貿易協定(FTA)を締結するという日程を組んでいました。ところが、メキシコ側の事情もあって不調に終わると、“FTA協定が結べなかったのは農業鎖国が原因だ”と言いがかりをつけ、「農業構造改革は待ったなしだ」と言い放つ――ずいぶん農民と農業をなめた話です。

 しかも、これが一時の暴言に終わらず、いわば「ノロシ」になって、小泉型農業構造改革を猛烈な勢いとスピードで進めようという動きになっています。その舞台が食料・農業・農村基本政策審議会です。

 これに対する国民の批判を抑えつけるために小泉首相が編み出した戦術が、農業と食糧を守れという勢力を“抵抗勢力”呼ばわりするやり方です。

 「小泉首相が農業分野でも構造改革に乗り出した。自民党の伝統的な支持基盤だけに、首相が抵抗勢力と位置づける族議員との対立構図をつくりやすく、改革姿勢をアピールする一環として効果的との判断からだ」というわけです(「日経」十一月二十九日)。

 自民党の“族議員”が本当に農業と食糧を守る勢力だと言えないことは明らかですが、小泉首相がやろうとしているのは“議員”を党内の「仮想敵」に仕立て、これと「対決」する姿勢を見せることで世論の支持をかすめとってきたやり方の繰り返しにすぎません。これは、こういう目くらまし戦術をとらないと、小泉政権がもたないという危機感の現れです。

 同時に、こういうやり方が、財界が陣頭に立って進めている「保守二大政党」づくりのもとで行われていることを重視する必要があります。

 奥田経団連会長が「鎖国」発言を、部下をほめるように賞賛し、民主党の菅代表がテレビ討論で「総理がいう『農業鎖国』……は、言葉としては賛成です」と言い放つ――こういう財界と民主党の同調のもとで、事態が進んでいるのです。

何を「改革」するのか

 それでは、何を「見直し」、何を「改革」するのか――。

 第一は食糧自給率目標の扱いであり、第二は農地制度を解体して大企業・株式会社に対する農地支配を解禁すること、そして第三に、これとも関連して農業構造の改革を進めることです。昨年から進められている「米改革」は、その突破口です。

 自給率向上目標の突き崩し

 第一に「基本計画」では、カロリー自給率を四〇%から、二〇一〇年に四五%に引き上げることになっていますが、これがジャマで仕方がない。

 「これまで目標として掲げている『自給率』だけでは、非効率な農産品も国内で生産するための『金科玉条』になりかねないとして、いざという時に休耕農地などの活用で、どの程度増産できるかといった潜在能力も検討課題にする」(「朝日」十一月二十二日)という報道は、その端的な表現です。

 大多数の国民の熱い願いに押されて設定した自給率向上目標を「金科玉条」だと言って突き崩そうとする――これが第一の問題です。

 農地を大企業支配にゆだねるのか

 第二は、農地を大企業・株式会社の支配にゆだねる問題です。この問題をめぐっては、ここ数年さまざまな動きがありましたが、まだ決定的に崩された段階にはいたっていないというのが、農地制度をめぐる状況です。

 「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認め」(農地法第一条)、農地改革の成果を受け継ぎ、農地の所有・利用は農民と、その結合体である生産法人などに限定するという耕作者主義の原則を突き崩すことを許すのかどうか――この問題が正念場を迎えているのです。

 企業農業に補助金や直接補償を注ぎ込む

 第三は、九割以上の農民を農業から追い出すという大リストラ計画を許すのかどうかという問題です。政府が審議会に提出した資料では、これまでの農政を「全生産者を対象とした護送船団的な政策」であったと“自己批判”し、これからは「プロ農業経営」だけを対象にした政策に転換すると言っています。

 そのため、価格保障を全廃して「担い手」に対する直接補償に一本化するとともに、農業に参入する「企業農業」を「プロ」中の「プロ」と位置づけ、企業農業に「直接補償」や「補助金」を注ぎ込むことまで想定しています(「朝日」同前)。

 食料・農業・農村基本政策審議会には財界代表が三人も入って、財界の財界による財界のための政治を進めようとしています。

 こうして見ると、財界が国民を攻めたてているように見えますが、これだけなりふりかまわぬ攻撃をしてくること自体が、彼らの「強さ」ではなく「弱さ」の現れです。

 メキシコ・カンクンで開かれたWTO閣僚会議が決裂に終わるなど、大国と大企業の横暴にストップをかける流れが世界の流れです。攻めているのは民衆と発展途上国であり、攻められているのは大国と大企業です。

 こういう流れに合流し、国民と共同して農業と食糧を守り抜こうではありませんか。

(新聞「農民」2003.12.22付)
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2003年12月

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