「農民」記事データベース20031124-612-01

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ブロッコリー暴落 農家悲鳴

埼玉県北部

 「三十年農業をやってきて、こんなに悲惨な経験は初めて」――いま関東を中心に、野菜産地がかつてない価格暴落に泣いています。とくに暴落の深刻なブロッコリーの産地、埼玉県北部を訪ねました。


労賃・箱代・運賃…身銭切って赤字出荷

市場 買い手なくモノあふれ

 「安いなんてもんじゃない。市場に持って行ってもモノがあふれていて、買い手がつかない」――埼玉県産直協同の職員、小谷野祐子さんは開口一番にこう訴えます。「先週、市場出荷したブロッコリーの価格は、十二個入りの一ケースで五十円。付き合いのある仲卸が五百円で引き取ってくれたのですが、その仲卸に市場から“ゼロが一つまちがっているんじゃないの?”と確認の電話があったそうです。農家からの出荷が集中し、特別に二万円かけてトラックを仕立てて出荷したのに、その三分の一が売れ残り、また市場まで取りに行きました」。

 市場でもブロッコリーがあふれて保冷庫に入りきらず、常温のまま山積みのため、たった一日で「死に花」と呼ばれる花が咲いてしまうのだそうです。「一つでも黄色いものが混じっていれば、廃棄になってしまう。出来はいいのに、なんとか流通させられないのでしょうか。本当に無惨です」と小谷野さん。

 なぜこんなに安いのか――。産直協同理事で武蔵野グループブロッコリー部会長の田中孝則(46)さんは「今年の秋は暖かいうえに雨が多くて、野菜の生育が異常に早く進んでしまった。十二月に出荷する計画の分を今出荷している状況で、逆に十二月に入ってからの不足が心配」と言います。

 「一個十円にもならないのでは労賃どころか、箱代、劣化防止シート、運賃も出ない完全な赤字出荷。ブロッコリーを畑に鋤きこんだという話もこの暴落で初めて聞いた。農家としては一個百円はほしい」と田中さん。

 雨上がり、雑木林に縁取られた田中さんのブロッコリー畑は絵画のような美しさです。「手塩にかけて育てたものは、やはり捨てられない。どんなに安くても、誰かに食べてもらいたい。自然とともに作業ができる農業は、本当に人間的な仕事です。もっと農業が大切にされる社会にしていきたいですね」と、噛みしめるように田中さんは話しました。

 JA深谷 営農指導センター参与 生形藤一さん

 ブロッコリーは、農家の高齢化もあって手間のかかるホウレン草やキュウリから転向し、年々作付が増えている作物です。今年は種まき直後の夏の低温の影響で、早生と中手の差がなくなってしまい、収穫適期が短く畑に置いておけないこともあって、いま一気に出荷される事態になっています。

 農家は出荷を考えて栽培するのですが、やはり気象変動には勝てません。せめて気象予測の信頼性が七〇〜八〇%に上がれば、もっと計画性をもって作れるはずです。国は、日本海側などブロッコリーのできない地域に物流させるなり、東京に出荷が集中して暴落しないよう、もっと調整するのも責任ではないでしょうか。

デパ地下 いつもの値1個128円

量販店が需給をかく乱

 「ブロッコリー1玉128円」「ハクサイ1/4カット98円」「ダイコン1本158円」「キャベツ1個180円」……。産地の悲鳴をしり目に、東京・池袋のデパートでは通常の値段とさして変わらない野菜が“超目玉品”として売られています。産地と小売段階での価格のギャップ――そのカラクリが暴落に拍車をかけています。

 たしかにこの秋の安値の一因は、九〜十月の好天で秋冬野菜の生育が早まり、一気に出回ったため。しかし、「それだけではない」と、大手青果卸の担当者は、契約取引の問題を指摘します。通常、量販店との契約取引では、二週間先の数量と価格を決めてしまいます。

 「量販店は、相場が下がっても余計に仕入れることはあまりない。だから入荷量が増えるとすぐに荷がだぶつく。今は、街の八百屋の方が安いでしょう。しかし、これほどひどく暴落するのは、元気な八百屋が少なくなっているからです」。

 十一月の連休明け、東京の市場では、さばききれずに痛んでしまうブロッコリーが大量に発生しました。かつて市場は、豊作のときには小売店を通して消費者に安く届け、消費を拡大する役割を果たしていましたが、今は量販店のパワーに押されて、その機能が薄れつつあります。

 アメリカ産ブロッコリーの価格が国内産を上回る逆転現象も、そのことを象徴的に示しています。十月の東京九市場のブロッコリーの平均価格は、アメリカ産が一キロ三百十二円なのに対して、埼玉産は二百六十九円。埼玉、群馬、茨城、栃木など関東の主だった産地が前年価格を割っているのに、アメリカ産は一〇三%で前年を維持しています。

 アメリカ産ブロッコリーが、ビタミンCの含有量など栄養面で国内産より劣っているのは周知の事実。それなのに国内産の暴落にもかかわらず、はるばる二週間かけて太平洋を渡ってくるのは、契約取引している量販店の需要があるからです。

 「量販店は需要と供給の関係をかく乱している」と指摘する農民連生産流通対策部の佐藤龍雄さん。「量販店は、市場が暴落している時にも大して値下げせず、相場が安定しているときは“特売”価格で発注してくる。高騰している時は、卸や仲卸に身銭を切らせる」。

 消費者の目を産地からますます遠ざけて、産地と市場を踏み台にし、街の八百屋を駆逐する量販店。これに抗して、流通を国民の手に取り戻す運動が求められます。

(新聞「農民」2003.11.24付)
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2003年11月

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