「農業鎖国」の小泉発言を契機に「米改革」をさらに加速させる農業つぶし改革(構造改革)が急浮上「農業鎖国は続けられない。構造改革は待ったなし」と放言した小泉首相。周囲が「誤解を受けやすい表現だった」(福田官房長官)と釈明していますが、本人は取り消しも謝りもしないまま。
財界の圧力に屈して「(農業鎖国とは)国境障壁だけで所得を維持しようという時代は終わったという意味。それゆえに農業の構造改革を進めようと(首相は)言っている。冷静にとらえれば、応援のエールを送ってくれたものと理解すべきだ」――農水省の渡辺事務次官は十月二十三日の記者会見でこのように述べ、小泉発言に全面的に迎合。 ついで翌二十四日には亀井農相が「農政改革にスピード感をもって取り組む」と言い出し、「食料・農業・農村基本計画」の見直しを繰り上げる意図を表明しました。 「基本計画」は五年に一回見直すことになっており、二〇〇五年が見直しの時期。農水省は、来年(〇四)三月に審議会の議論をスタートさせ、一年以上かけて検討して「新計画」を作ることを八月二十九日に決めたばかり。ところが「周囲の状況が変わってきた」(亀井農相)と称して、年内に審議会の議論をスタートさせると言い出したのです。 何が「変わった」のか――。最大の変化は亀井会見の三日前の小泉「鎖国」発言。もとをただせば、メキシコとの地域貿易協定(FTA)締結交渉が十月十六日に頓挫したこと。財界が、「FTA交渉が妥結できなかったために、四千億円損した」と難クセをつけたことが出発点です。 メキシコとのFTA交渉は、日本の大企業のメキシコ進出と工業製品輸出のために、メキシコから輸入する豚肉など農産物の関税をゼロまたは低税率にしようというのが中心。農業を犠牲にして財界の利益を確保する政策を地でいくものです。 (1)今後、韓国や東南アジア、オーストラリアなどとFTA交渉を進めるうえで農業がジャマになる、(2)だから関税ゼロでも「競争」できるような農業にするために徹底的な「構造改革」を行う、(3)それで生き残れる農業部門があれば、それはそれでよし、日本農業が生き残れなくても一向にかまわない――これが小泉「鎖国」発言に込められた意味です。
自給率下げ、株式会社参入、価格保障廃止基本計画の何を「見直す」のか――。 小泉発言に便乗したマスコミの論調とその他の情報をまとめると、次のような農業つぶしの骨格が浮かび上がります。 (1)食料自給率目標の引き下げ――基本計画はカロリー自給率を四〇%から四五%(二〇一〇年)に引き上げるとしているが、これは「非現実的」と称して引き下げる。 (2)九割の農民を切り捨てて「望ましい農業構造」を実現するためと称して農地制度を改悪し、株式会社の農地・農業への全面的な参入を認める。 (3)価格保障の“残り香”もなくし、ごく一部の「担い手」に限定した直接所得補償を導入する。 このうち、とくにコメントしておかなければならないのは直接所得補償です。「所得政策は農業の構造改革を推進し、担い手を育成して日本農業の国際競争力を強める」 (日本農業新聞十月二十四日)ことが目標です。 価格保障制度を完全に廃止して、日本農業を市場原理と国際競争に裸でさらし、ごく一部の「担い手」だけを対象に“親切”を装って直接所得補償を行うというわけですが、ここには二重三重の問題があります。 第一に、年金や医療費負担の改悪と消費税大増税を進める政府のもと、直接所得補償が市場原理と国際競争の嵐による暴落をカバーするとはとうてい考えられません。担い手にも、小泉改革お得意の「痛み」を強要するだけでしょう。 第二に、直接所得補償の対象にならない中小農家には文字通り「痛み」だけ。“激痛”のあげくのリストラという結果になることは明白です。 これらは「米改革」に盛り込めなかったもの。“ポスト米改革”の課題を前倒しして、米改革と並行して「待ったなし」で農業つぶし改革を強行しようという狙いです。
農業つぶし政策を競う自民党と民主党こういう重大問題の全貌を明らかにすることなく選挙に突入し、しかも「鎖国」発言などで“匂い”をかがせておいて、選挙が終われば「信任を得た」と称して強行しようとする自民党や公明党などの狡猾さ。 さらに財界本位・アメリカべったりの政策を自民党と競い合う民主党は「総理がいう『農業鎖国』には、言葉としては賛成だ」「株式会社(参入)も検討していい」などと公言するありさま(菅代表、十月二十七日のテレビ党首討論で)。 全国農政協に対する回答や「マニフェスト」でも「農産物価格は市場において輸入農産物との競争によって形成されるようにします」「株式会社による農地取得……を緩和します」「食料の安定生産……を担う農業経営体を対象に……直接支払制度を導入します」などなど、財界が泣いて喜びそうな「政権構想」のオンパレードです。
今、たたかいの時WTO閣僚会議の劇的な決裂が示したのは、アメリカべったり、財界(多国籍企業)本位の流れが世界に通用しないということでした。 「米改革」をめぐるたたかいは、全面的な農業つぶし改革とのたたかいの一部であり、前哨戦でもあります。十一月下旬には来年の減反目標が示され、「地域水田農業ビジョン」づくりも本格化します。 いま、たたかいのときです。
(新聞「農民」2003.11.10付)
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[2003年11月]
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