減反政策はアメリカに媚(こび)を売る以外の何ものでもありません!
和食をこよなく愛する音楽評論家 湯川れい子さんに聞くゆかわ れいこさん 1939年、東京生まれ。世田谷の鴎友学園女子高校卒。60年、ジャズ評論家としてデビュー。以後、ラジオのDJ、ホップス評論、解説を手がけるほか、講演会、テレビでの審査員、コメンテーターとしても活躍中。多数のレギュラー頁を持ち、「ランナウエイ」「六本木心中」「恋におちて」など作詩のヒットメーカーでもある。現在、日本音楽著作権協会評議員・理事、日本作詞家協会副会長のほか地球環境女性連絡会副会長、環境省中央環境審議会委員などを務める。
作詞家、音楽評論家として活躍する一方、ディズニー映画の日本語詞、ラジオ・テレビなどの出演、講演会など多忙な合間をぬってのインタビュー。大好きな「おにぎり」の話から「食料問題」「環境問題」「子守歌」へと話題が広がって…。
最近『食べもの通信』(八月号)に「心に残る食べもの一品」というテーマで、おにぎりの話を載せていただきました。「これが人生最後の一食」となったら、私は「炊き立ての白いご飯をゴマ塩で握り、パリパリの海苔を巻いた“おにぎり”が食べたい」と書いたんです。
「おにぎり」の思い出は…戦時中のことです。戦争が激しくなり、小学校に上がったばかりの私は山形県米沢市の父方の祖母の家に疎開しました。ところが米沢は米どころだというのに、もうお米の姿はほとんど見られませんでした。大根の葉やおいもの蔓(つる)が混じった「すんとん」が主食でした。そんなある日、何があったのか覚えていませんが、私は「おにぎりが食べたいよう」と言って、大泣きをしていました。玄関から外に出されても、あたりかまわぬ声で泣いていたのでしょうね。 すると近所の、背中に赤ちゃんをおぶった主婦が「かわいそうに」と言って、おにぎりをそっと渡してくれたのです。貧しい身なりの、道をへだてた棟割長屋の一軒に住んでいた人でした。その時のおにぎりのおいしさは生涯忘れられません。 それ以来、私は「おにぎり」が大好きで、今も和食党なんです。
30年前のニューヨークでは私は仕事で出張する機会が多いんですが、最近東京駅の八重洲口に、すごくおいしい「おにぎり」を売る店ができましてね。目の前で、炊き立てのご飯を握ってくれるんです。ゴマ塩に海苔が巻いてある……それを買って、新幹線に乗るのが楽しみなの(笑い)。 和食というと、今では外国でも日本料理のお店が増えていますが、私が一九六四年、東京オリンピックの年に初めてアメリカへ取材に行った頃、ニューヨークには二軒くらいしか日本食のお店がなくて、値段もすごく高かったから食べられませんでしたよ。
「和食は健康食」と言われるけどどうも誤解されている面があるんですね。私の友人で「ダイエットにいいから」とお寿司屋さんへ通っている人がいて、ハマチとかマグロを好んで食べるんです。野菜を食べませんから、動物性蛋白質と炭水化物ばかりで逆に肥ってしまいます。 和食が健康にいいと言われるのは、旬の野菜とか海藻類、大豆や魚などをバランスよく食べるからです。ゴマ油や菜種油もいいんですね。 私は、人間の体を作っているのは一〇〇%食べ物だと思っています。食べ物をどういうふうに摂取するか、何を食べるかということが非常に重要です。それから季節のエネルギーをもったもの、旬のものを食べることです。 そして、できれば「身土不二」で、自分の身の回り四キロ四方くらいの所で採れるものを食べられたら、いちばん良いと思いますけど。
今年は冷夏でお米が不作に今年は冷夏が影響して、東北や北海道をはじめ全国的にお米が不作だそうですが、心配です。ところが政府は「古米が百五十万トンあるから心配ない」と言っていますが、私はおかしいと思っているんです。減反させている一方で外米を輸入しているから、お米が余っているわけでしょう。 大体、自分の国の穀物の自給率が三二%なんてとんでもないことです。私は、減反政策というのは、「アメリカに媚(こび)を売る以外の何ものでもない」と思っています。 今の古米にしても、莫大な倉庫代がかかって困るんだったら、食料不足で困っている国に差し上げたらいいと思います。そもそも予想されない事態に備えた非常食料として、常日頃からお米を確保しておくことが国の責任だと思います。
地球の温暖化は異常気象が原因日本は冷夏でしたが、フランスは四〇度を超す猛暑で何千人もの死者が出たり、世界中が異常気象に見舞われました。 私は二十五年ほど前から、環境問題に少し首をつっこむようになったんですけど、陸地に近いところで台風が発生したり、干ばつと水害が同時に地域的に起きることが、二十年ほど前から警告されていたんです。当時は、まだまだ先きの話で百年後みたいに考えていたのが現実になり、氷河が溶けはじめたり、台風が巨大化しています。原因は必ずしもエルニーニョ現象の影響だけではありません。 私は地球の温暖化が問題だと思います。アメリカが京都議定書を批准するとか、しないとかのレベルではなく、国際的にもっと真剣に考えなければならない時なんです。これは先進国が起こしてきた問題ですし、未開発国や後進国の反発を受けてもいます。それらの国を含めて、一日も早く批准して、具体的に行動していってくれないと、地球がもう一つ半くらい必要になってきているんですね。 中国でも開発が急速に進んでいますから、ますます地球の温暖化現象には拍車がかかるでしょう。私が見ていて、二十年間でここまで来てしまったということは、あと十年でもっと深刻な状況になるかも知れません。それこそ世界各国が本気になって力を合わせ、取り組んでいかなければならないことだと思います。 私は中学生の頃、体が弱かったので、枕元にラジオを置いて専ら進駐軍放送から流れる音楽を聴いていました。グレン・ミラーとかベニー・グットマンとか、そういう音楽が心地よくて、やがてロックンロールやモダンジャズにも親しむようになりましてね。たまたま、その両方を調べたり書いたりする人間が日本の女性にいなかったので、仕事を頼まれるようになりました。大変幸せなめぐり合わせだったと思っています。
心を癒す素敵な子守歌作りたいジャズは黒人霊歌やゴスペル、ブルースなどがベースになっていますが、ロックンロールもそれらの黒人音楽、ゴスペルがベースになっているんです。日本の民謡にも素晴らしいものがたくさん残っています。私が作詩したヒット曲もありますが、今とりかかっているのは、「若い人たちが歌えるような素敵な子守歌」です。 子守歌は親と子のコミュニケーションの原点ですし、人間の感性を育てていくうえでものすごく大切なものです。赤ちゃんを抱っこするお母さんだけでなく、お年寄りから若い人たちまでが歌って「心を癒(いや)される」ような子守歌が欲しいですね。 (聞き手)角張英吉
(写 真)関 次男
(新聞「農民」2003.10.13付)
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[2003年10月]
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