途上国が団結して共同提案カンクンWTO閣僚会議決裂アメリカ・EUの思惑を打ち砕く
農産物の輸入自由化やグローバル化をいっそう進めることを目的に、メキシコ・カンクンで開かれていたWTO(世界貿易機関)閣僚会議は九月十四日午後三時(日本時間十五日早朝)、交渉が決裂したまま閉会しました。Vサインと「コングラチュレーション!」(おめでとう)の興奮に包まれたカンクンから、農民連の真嶋良孝(副会長)と佐藤長右衛門(常任委員)がリポートします。
世界の流れ変える大きな出発点に途上国が初めて「主役」になった決裂の瞬間、閣僚会議会場のコンベンションセンターは人波と歓声、Vサインでわきかえり、初めて閣僚会議の「主役」になった中南米、アフリカ、アジア諸国の政府代表の晴々とした顔が印象的です。 WTO閣僚会議の決裂は「先進国の最初の敗北」といわれた九九年のシアトルに続いて二回目。その背景にあるのは、WTO加盟国の三分の二以上を占める発展途上国の団結した力です。 「農業交渉を片づけてから全議題の仕上げに入る」――八月に談合提案を提出し、“二大パワー”の思惑通りに事が進むとタカをくくったアメリカ・EUの戦略は劇的に破たんしました。 決裂の要因は大きくいって二つ。一つは農業交渉そのもので、もう一つは多国籍企業の利益を最優先して、途上国に対し投資や政府調達などの全面的な市場開放(国売り)を迫る「シンガポール・イシュー」。 農業交渉に関しては、ブラジルやメキシコ、南アフリカ、インド、中国など二十一カ国が、アメリカ・EU談合案に対し「G21提案」を提出(会議中にインドネシア、ナイジェリアが加わり、二十三カ国に。世界人口の六割、農民の七〇%を占める)。「初めての幅広い政治的連合ができた。二十一カ国が本気だったことが、今回の成功を導いた」(ブラジル代表)のです。 シアトルでは、米欧中心の非民主的な運営に途上国が反発し、閣僚会議宣言案に対する拒否を鮮明にしたことが決裂の原因でしたが、今回は途上国が「主役」として能動的に行動したことが決裂の原因になったわけで、先進国・多国籍企業本位のWTO体制に対する痛烈な打撃といっていいでしょう。 「シンガポール・イシュー」についても、会議が始まった段階で、WTO加盟国の六割近くを占める八十カ国が「交渉そのものに反対」の態度を鮮明にしていました。
財界の指示通り“大多数”を無視した米欧代表これに対してアメリカやEU、日本の態度は傲慢そのものでした。会議最終盤の十三日に、アメリカのゼーリック通商代表とEUのラミー通商担当委員が連名で、米欧の財界団体に対し「皆様の指示通りに、加盟国の大多数を無視して作った宣言第三次案(十三日付テキスト)は、期待以上の出来となった」という書簡を送る始末。この書簡をNGOが暴露し、「会期延長」もささやかれていた閣僚会議は、日が高いうちに決裂という経過をたどりました。 日本政府の態度はお粗末そのものでした。 当初示された宣言案は米のほぼ完全自由化を意味する「関税の上限設定」と「ミニマム・アクセスの拡大」をもりこんでいました。これに対し第三次案には「ごく限られた品目について『非貿易的関心事項』にもとづく柔軟性が与えられる」という規定がカッコ付きで挿入されました。米の関税上限については多少手心を加えるという意味にとれますが、関税引き下げのねらいはそのままです。これを「前進」と評価し、“もう農業交渉は終わった”とばかりに、経団連なとが要求する「シンガポール・イシュー」の交渉に米欧以上に積極的に乗り出そうとしたのです。 フランスのNGOのメンバーは「決裂の“功労者”は日本政府かもしれないね。日本政府に表彰状を送ろうか」と、痛烈に皮肉っていました。 とはいえ、「北」側もこのまま引き下がるはずはありません。閣僚会議は二年に一回という原則をふみにじり、来年、香港で閣僚会議を開くことを内定したのもそのあらわれです。十年ぶりの凶作に苦しむ日本の農業に思いをはせるとともに、世界の世論が切り開いたこの成果を今後の運動の大きな出発点にしたいと決意しています。
閣僚会議に参加したのは、農民連の真嶋・佐藤と、食健連の坂口正明事務局長、大阪消団連の飯田秀男事務局長、コーディネーター兼通訳の伊庭みか子さんの五人。 カンクンでは、十日と十三日のデモに参加するとともに、メキシコやアメリカ、西アフリカ、フィリピンなどの農民組織やNGOと親密な交流を重ね、十三日にはアフリカ、ブラジル、スイス、アメリカの農民組織の代表と一緒に記者会見も行いました。 十七日に訪れたメキシコの農村の様子も含め、続報します。
世界中でWTOノー・WARノーグローバルピースマーチ 農民連も東京で参加カンクン・WTO閣僚会議にあわせて、世界中のNGOがとりくんだグローバルマーチ。9月13日、東京・芝公園では、45団体、700人が参加し、農民連、全国食健連も果物などを販売、米改革に反対する署名などを集めました。
(新聞「農民」2003.9.29付)
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[2003年9月]
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