「農民」記事データベース20030915-602-06

WTO閣僚会議の焦点

アメリカの身勝手 日本政府の腰抜け

農民連と全国食健連が代表派遣


 九月十日から十四日まで、メキシコ・カンクンで開かれるWTO第五回閣僚会議。農民連と全国食健連からは代表四氏がカンクン入りしています。

 「野合会議」で決まらず米・EUの談合で

 当初の予定では、農産物については三月末までに自由化推進の大枠(モダリティ)を合意し、九月の閣僚会議までに各国が譲歩案を持ち寄って交渉の仕上げに入るはずでした。

 しかし、三月の大枠合意に向けてWTO農業委員会のハービンソン議長が示した「モダリティ案」は、どの加盟国からも支持を得られず、事実上お蔵入り。WTO側は二月、六月、七月と「非公式ミニ閣僚会議」を開き、必死にテコ入れをはかってきました。

 WTO加盟国は百四十六(〇三年四月現在)。しかしミニ閣僚会議はWTO協定上、なんの規定も権限もなく、参加国を誰が決めるのかも不明な“野合”会議。WTOの反民主性、とくに発展途上国無視の態度を象徴するものとして批判の的になってきました。

 こういう“野合会議”でも結論は出ずじまい。そこでシャシャリ出たのが、アメリカと欧州連合(EU)でした。「われこそはWTOの二大プレーヤー」とばかりに、誰が頼んだわけでもないのに、勝手に「アメリカ・EU共同案」をまとめたのが、日本がお盆の八月十三日。

 そして八月二十四日にはWTO一般理事会議長が「農業部分はアメリカ・EU案のコピー」といわれる議長案(閣僚会議宣言草案)を提示しましたが、これにも異論続出。

 どんなに時間がかかろうと、加盟国が集まってルールを決めるのが民主主義というものです。しかし、二十数カ国で密室協議をしてもまとまらず、ついにはわずか二カ国の“談合”で大枠を決めるという最悪の挙に出たのです。

 シアトルの二の舞?早くも次期会議をセット

 しかも、アメリカ・EU案も議長案も、具体的な数字を入れることができずじまい。関税引き下げなど具体的な数字が議題になっている交渉で、数字がまったく入らない案文しか準備できないこと自体が、WTO体制の深刻な行き詰まりを示しています。

 結局、八月二十九日に終わった一般理事会は、議長案を採択できずに、「議長の責任において」(議長の“無責任”においてというべき)、加盟国に送るという措置をとったのです。「決裂含みで本番へ」(「日経」)というわけです。

 一九九九年十二月にアメリカ・シアトルで開かれた第三回閣僚会議は、「ガット・WTO史上初めて」といわれる破たんのうちに終わりました。現在の状況はシアトルに似ているともいわれます。

 加盟国が百四十六に増え、発展途上国の発言力がさらに強まっていること、二〇〇一年に中国がWTOに加盟し、途上国との協力を強めていること、さらに農業・食糧をはじめ環境、漁業などなどのNGOの運動の蓄積もこの四年間で進んだこと――などからいって、事態はシアトル以上といっていいでしょう。

 それだけに「シアトルの敗北」を繰り返さないための動きも執拗です。

 閣僚会議は「二年に一回」が通例ですが、「来年早々に第六回閣僚会議を開く」案が浮上しているのもその一つ。第五回閣僚会議が開かれてもいないのに、「決裂」を見越して「延長戦」の場を決めておく――これは、WTOとそれを支配するアメリカなどの自信のなさを示すものです。

 輸入国に攻撃的、アメリカの利益は守る身勝手

 いま提示されている閣僚会議宣言草案と、その“本家”であるアメリカ・EU共同提案は、農産物輸入国に対しては輸入の完全自由化に直結する関税の大幅引き下げを強要する一方、農産物輸出国(アメリカ・EU)の農業への傷を最小限におさえようとする身勝手なものです。

(1)関税大幅引き下げ 日本の米など各国の重要品目の関税の上限をもうけ、それ以下に引き下げるか、輸入枠(ミニマム・アクセス)を拡大する――。「上限」の数字は提案には明記されていませんが、アメリカのゼーリック通商代表は「一〇〇%〜二〇〇%」とのべています。

 現在、日本の米の関税率は四九〇%相当ですが、二〇〇%になれば、外米は国産米の半値近くで国内に出回ることになり、打撃は必至です(図〈図はありません〉)。一方、アメリカもEUも二〇〇%以上の物品はほとんどありませんから、まったく無傷です。

 悪評が高かったモダリティ案でさえ上限が二七〇%相当ですから、アメリカ・EU案は「改善」どころか、輸入国に対してより攻撃的です。

 さらにミニマム・アクセスの削減・廃止どころか、大幅拡大を求めるというのです。

 ウルグアイ・ラウンド当時、アメリカ農務長官と通商代表を務めたヤイター氏は、かつて次のように「勝利宣言」をしました。「『関税化』(自由化)は…非常に大きい成果であった。われわれは関税の引き下げ交渉が行えるような立場に(輸入国を)追い込んだのだ」と。つまり、自由化させて、最初は高関税を認めても、関税を引き下げさせれば、輸入国を完全自由化に追い込むことができるというわけです。

(2)輸出補助金は温存 いま最も問題になっているのは、アメリカとEUが輸出補助金を付けて生産コスト以下の値段で農産物を輸出し、日本や発展途上国の農業をつぶしていることです。アメリカ・EU案は、途上国の「特別品目」に対する輸出補助金以外は抽象的に「削減」を言うだけで、最も貿易を歪める輸出補助金をきっぱりやめる気は毛頭ありません。

(3)国内支持も身勝手 関税や輸出補助金では一切数字を示していないのに、国内支持の部分では「農業生産額の五%以内の直接支払い」を認めることを明記しています。

 WTO協定のもとで、価格保障や直接支払い予算を増やしたのはアメリカですが、「五%」条項があれば無傷で済むという打算からです。

 自民党政府の腰抜けぶり

 アメリカ・WTOの反民主主義的な運営と主張の中身の身勝手さは明白です。それでも日本政府は「アメリカとEUはWTOの二大プレーヤーだから仕方がない」(外務省)、「アメリカとEUの努力は多とする」(日本政府のWTO提案、八月)という腰抜けぶりです。

 十年ぶりの凶作が確実視されているにもかかわらず「米改革」を強行する姿勢は変えず、その一方でアメリカにはまともにモノも言えない――こういう政治にノーをつきつけるときです。

(新聞「農民」2003.9.15付)
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2003年9月

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