今こそ私たちの力量がためされる時冷害でもしっかりとおいしい安全な米 消費者とお米屋さんに届けよう福島・浜通り農産物供給センター
10年前にも威力発揮した栽培方法今年も、培った技術で安定収量を冷夏でも、おいしくて安全なお米をしっかり収穫し、消費者とお米屋さんに届けよう――凶作が心配されるなか、福島・浜通り農産物供給センターは、最後まであきらめず、最善の手だてを尽くしています。
丈夫な稲が良い米に九月一日、福島県・浜通り地方はどんより曇り時おり雨がぱらつきます。晴れた日は暑くなるものの、秋になったり、夏になったり、今年の夏空は気まぐれです。 八月十五日現在、浜通り地方の米の作況は一割以上の減収が見込まれる「著しい不良」と発表されました。「著しい不良」は、北海道と青森、岩手、宮城の三県。福島県内では浜通り地方だけです。日照、気温ともに十年前の大凶作を下回るだけに、生産者の不安はぬぐえません。 こうしたなか、浜通り農産物供給センターはリン酸の施用を呼びかけています。出穂後、花が収まる九月に仕上げのリン酸を散布して根を元気に保ち、米粒の充実と食味の向上を助けるほか、いもち病が好む遊離窒素を消化して、病気を防ぐのだといいます。
血のにじむ思い強力な風でリン酸を田に散布する動力散粉機は、タンク一杯に入れると五十キロにもなります。これを背負ってぬかるむ畦を歩きながらの散布作業は体力のいる重労働。 「普通は十回もやれば肩が痛くなってくる。血のにじむ思いと言うか…。真夏に汗を流し、田んぼで散粉機を背負った農家はだいたいセンターの会員。みんな顔が赤銅色に日焼けしている」と苦笑いする相馬市の安部義雄さん(67)。「穂が出てから稲刈りまでの五十五日間で食味をあげ、いもち病を防ぐ手だてがリン酸。三〜四日に一回の晴天を稔りにつなげ、米粒がゆっくり充実していく」と話します。
冷夏に負けない稲浜通り農産物供給センターでは農薬によるいもち病防除を禁止しています。このため、天候不順でも稲を健康に保ち、いもち病にかかりにくく育てるためにはリン酸施用が欠かせません。 福島・浜通り地方など東北の太平洋側は冷害の常襲地帯。オホーツク海高気圧が強く張り出す年は、“ヤマセ”と呼ばれる冷涼な風が吹き付けるからです。 十年前の大冷害の時、浜通り地域の収量が平年の四割近くまで減収するなか、九割近い収量を上げた安部さんの栽培技術が注目されました。その後、冷夏など気候の変化に大きく左右されず、米粒の充実度と食味が高まる技術としてリン酸と苦土(マグネシウム)などの資材を使うセンターの栽培技術を確立してきました。 「デンプンをしっかり作ることのできる丈夫な稲を作り、食味も米の充実度も良くなっている」と話すのは小高町の三浦広志さん(43)。今年のような「冷夏で品質や収量が保てるかどうか、組織が試される」と言います。 地域の慣行栽培の田んぼを見て回りながら「今年は二〜三割くらいの減収か」と安部さん。多くの田んぼで出穂が遅れ、穂先が天を向いて突っ立つなかで、安部さんの稲に勢いがあり、穂先が垂れ始めていました。
信頼に応え一方、お米屋さんのもとでは、冷害への危機感から米の卸値が上がっています。「作況が著しい不良と言われているが、手入れをキッチリやるかどうかで味と収量が違ってくる。こういう時こそ米を届けるべき」と安部さん。良いお米をきっちり届けて、米産直を続けている新婦人や、準産直に参加するお米屋さんとの信頼関係を高めようと奮闘しています。 「十年前の米パニックの時、アトピーの子どもが食べる国産米を探しまわり、十キロ一万円を超えるお米を京都でやっと手に入れた大阪新婦人の若いお母さんが、『だから少し高くても産直米を食べ続けたい』と訴えたことを思い出す」。こう話す小高町の亀田俊英さん(55)は、「新婦人とともに、農民連の交流会に集まったお米屋さんの期待にも応えていきたい。米価の暴落で再生産すらままならないが、主食の米を供給する責任が試される」と強調します。
地域で試される冷害による凶作が心配されるもと、日本の米生産を根こそぎつぶしかねない「米改革」の具体化が各地で始まっています。 浜通り農業を守る会では、「米改革」の中身を知らせる支部や地域の学習会。十万枚のビラ配布などを計画しています。 「地域の農家に『米改革』で流通がどう変わるか、お米屋さんの実態や『米改革』の中身を知らせ、会員を増やしていきたい」と亀田さん。 「生産者を選別する農水省の方針に従って地域ビジョンを作れば、小高町で千二百戸ある農家が六十戸に減らされる。これでは地域農業は守れない。地域の実情にあったビジョン作りをどう進めるか。農民連の真価が問われる」と決意を語りました。
(新聞「農民」2003.9.15付)
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[2003年9月]
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