「農民」記事データベース20030825-599-02

米「改革」関連予算案

自民の総選挙対策の政治臭プンプン
農民だましの“魔法”を解剖する〈下〉


 「担い手」の未来はバラ色か?

 暴落補てん対策を目まぐるしく変える一方で、政府・自民党は、新たに「担い手経営安定対策」制度を作り、せめて担い手の経営だけは救うという素振りを見せています。

 また、批判が強かった担い手の面積要件(北海道で水田十ヘクタール以上、都府県で四ヘクタール以上、集落経営体は二十ヘクタール以上)をわずかに緩和し、知事の認定でそれぞれ八割までを認めること、また、中山間地域の集落経営体は十ヘクタール以上にするとしています。補てんも、基準収入額との差額の八割を九割に、掛け金の拠出割合を農民一対政府一から、一対三にすることを提案しています。

 これも、当初案がいかに日本農業の実情に合わないものであったかを示しているだけのことであって、自民党の「手柄」などというものではありません。

 担い手に襲いかかる二重三重の負担

 それでは、担い手の未来はバラ色でしょうか? 生源寺・生産調整研究会座長(東大教授)が言うように「フレッシュな気持ち」になれるでしょうか?

 第一に「担い手」になる人には、十アール千五百円の需給対策負担や稲作所得基盤確保対策(現在の稲経)の負担に加え、担い手経営安定対策などの様々な負担がかけられます。水田をつぶし、畑地化を進めるためのトモ補償も、主に担い手負担になることは必至です。

 これだけの負担をして米を作ったとしても、米価は市場原理まかせで暴落すれば、基盤がきわめて弱い「保険制度」である担い手経営安定対策がいつつぶれるか、わかったものではありません。

 第二に自民党案は、担い手には稲作以上に転作に大いにとりくんでもらう目標を「意欲的」に設定しています。麦・大豆・飼料作物の場合、九九年には担い手の占める割合が二六%だったものが、〇六年には五六%、二〇一〇年には七五%(米は六〇%)を担ってもらうというのです。

 小規模農家が稲作をやめれば、担い手がゆうゆうと米を作れると思っている人もいるかもしれませんが、事態はそれほど甘くはありません。

 過剰米のコストは915円!だから3千円で投げ売りしろ!

 最後に、過剰米の「集荷円滑化対策」です。

 従来の農水省案では、(1)平年作以上の「過剰米」を主食用に回さず、飼料用や加工用にたたき売りをする(2)そのため、政府系機関が外米の輸入原価並みの一俵(六十キロ)三千円を融資して区分集荷し、たたき売りができなかった場合には「質流れ」にするということになっていました。その後、変化は二つありました。

 3千円が8千円に化ける“魔法”

 第一は「一俵三千円とは、いかにもひどい」という批判の高まりです。批判に耐えきれなくなって自民党が使ったのが、「融資単価三千円のまま手取八千円確保の“魔法”」(「米麦日報」七月二十八日、表4)。しかし、これは子どもだましにもならない手品です。

 

表4 集荷円滑化対策

(60キロあたり円)
融資単価水準    3000円
生産者からの拠出  3000円
保管料等経費助成  1000円
(2分の1相当)
集荷奨励      1000円

 「生産者からの拠出はもともと農家が出したもので問題外。結局、融資と保管料助成・集荷奨励の合計五千円から、保管料の残り千円を引いた四千円で買いたたくだけではないか」という農民連の指摘に、農水省は反論もできませんでした。

 また「百七十五億円程度」とニセ表示されている集荷円滑化対策予算案のうち、融資(七十五億円)は立て替えで、実際は百億円にすきないことも認めざるをえませんでした。

 「棚上げ備蓄」の真剣な検討を

 第二は「過剰米」の売り先です。農水省が自民党にこっそり示した資料では、「過剰米」は主食用にはもちろん、酒・味噌・米菓などの「加工用」にも売ることは禁止。まったく新しい需要先である「生分解性プラスチック」(一俵千円前後)、米粉パン用の原料(同五千円前後)、あるいはエサ用にしか売ってはいけないというのです。

 しかも「生分解性プラスチック」の需要見込みは〇〜千トン。つまり、需要があるかどうかわからないというシロモノです。米粉パンの需要も二千〜三千トン。結局、一俵千円以下のエサ用に処理する以外に道はないということになります。農水省が「三千円」にこだわったのは、このためです。

 しかも、たたき売りを合理化するために農水省が持ち出したのは「豊作による過剰米の生産コストは一俵九百十五円」という「試算」(図〈図はありません〉)。

 農家が汗水流して作った米が、外米の輸入原価の三分の一以下の九百十五円! 国民の税金から俸給をもらっている役人が、なんともバカげた仕事をするものです。

 こんなところに悪知恵を使うヒマがあったら、現に一九八〇年代まで政府がやっていたように、豊作分を「棚上げ備蓄」にして数年間保管し、凶作がなくて幸いに用済みになった古米を加工・援助・飼料用に売却することを検討すべきではありませんか。

 冷害が心配される中減反を拡大するのか

 ことしの低温と日照不足は明らかに異常です。農水省も、平成五年の大凶作以来初めて冷害対策本部を設置しました。

 ところが「米改革」のもとで検討されているのは減反面積の拡大です(〇四・〇五年はプラス四万ヘクタールの百十万ヘクタール、〇六年は百十二万ヘクタール)。

 “冷害になったら、備蓄米と外米を食え”というつもりなのでしょうが、備蓄米(国産)百六十三万トンのうち四割は五〜七年古米。外米(九十五万トン)は加工用に輸入したもの。国民がまともに食べられる米は九十万トンそこそこで、作況が九十五以下に落ちこめば、米パニックになりかねません。

 それでも減反を拡大するのは、文字通り「穀(ごく)つぶしの政治」です。

 政府は、十年前の米パニックにまったく無反省。それどころか、今度こそ「外米」を国民に受け入れさせようとねらっているとしかいいようがありません。 

 「亡国」の米つぶしに抗して、断固として米を作ろう

 こんな農民と農村の実態に根づかない「米改革」がうまくいくはずはありません。しかも、いまアメリカとWTOは手を変え品を変えて、米の関税大幅引き下げと輸出拡大をねらっています。

 いま、ここであきらめれば、外米の輸入が増えるだけ。外米はイヤ、安全・安心な国産米をという国民の期待にこたえ、米を作ってこそ展望が開けます。

 いまこそ、国民と手をつなぎ、安心して米が食べられる国、安心して米をつくることができる国にするために先頭に立とうではありませんか。

(新聞「農民」2003.8.25付)
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2003年8月

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