「農民」記事データベース20030811-598-16

東京に生産者と消費者が語り合える「青空マーケット」を作りたい!


 米作りをライフワークにしている

   俳優  永島 敏行さんに聞く

〔プロフィール〕 一九五六年、千葉県生まれ。大卒後、映画界に入り、七八年のATG『サード』(東陽一監督)でデビュー。八一年のATG『遠雷』で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞したほか数多くの賞を受賞。これまでに九四年『午後の遺言状』、九五年『ひめゆりの塔』など数多くの映画に出演。舞台も『飢餓海峡』『怒りの葡萄』『欲望という名の電車』『越路吹雪物語』など八三年から〇三年まで二十年間に約三十回出演。今年も五月に『友情』(大阪・松竹座)、八〜九月に『サボテンの花』(東京・三越劇場)、十一月に『用心棒』(新宿コマ)と続きます。


 映画、テレビ、ラジオ、舞台へと幅広く活躍している永島敏行さんが、いま「米作り」をテーマにした映画の撮影中です。大学時代は野球選手として鳴らし、プロになったのは「俳優」。渋くて味のある演技で日本アカデミー賞主演男優賞をはじめ数多くの賞を受賞しています。その永島さんに「米作り」に込める思いをお聞きしました。


 泥遊びをして育った少年時代

 僕の米作りは「ライフワーク」と言うほどのものではないんですが、きっかけの一つは家を引越す時に「もう少し緑があって、土のある所がいいな」と思ったんです。僕は子どもの頃から土の上で育ったんで、自分の子どもを育てるには庭があって土のある所をと探し、今はささやかな家庭菜園を家族と一緒に作っています。

 生まれは、千葉市で実家は小さな旅館をやっていました。周りには田んぼがあり、まだ海はきれいだったし、半農半漁でノリを作っていたりして、泥遊びはもちろん、ザリガニ捕りやイカダ遊びなどをやっていました。それに比べると、今の都会の子どもたちは自然の中で元気に遊ぶ機会がなくてかわいそうです。

 米作りにはまるきっかけは…

 米作りに「はまる」ようになったのは、今から十二〜三年前、秋田県の十文字という県南の町で友人たちと映画祭を始めたのがきっかけです。

 町に映画館がなくなってしまい、町役場に勤めていた大学時代の野球仲間から「町の人たちに大きなスクリーンで映画を見せたいから手を貸してくれ」と頼まれまして。そこで友人たちにも協力してもらって小さな映画祭を始めたんです。

 何回か十文字町に通っているうちに泊めてもらった農家の人たちと親しくなり、米作りの苦労と喜びの体験談を聞かせてもらいました。ちょうど子どもが生まれたばかりだったので、都会だと泥遊びもできないし、自分が体験してきたことを体験させてやりたいと思ったんです。今でも多いと思いますが、育児のノウハウ本がたくさん出ていて、読んで「果たしてこれでいいのかな」と疑問を感じていたんです。自分の親がやってきたことが、現代の子育てに通用しないのかなあ…と。

 都会では緑が少なくなったり、土が少なくなったりしている。昔はどこにもあった田んぼを見ることもない。じゃあ田んぼで田植えを体験させてみるかと。

 秋田と成田で家族ぐるみ米作り

 実際に田植えに参加したのは十年前です。十アールくらいの田に苗を植え、秋に稲刈りをして、収穫したお米を炊いて食べるうまさは格別です。田植えから稲刈りの間にはドジョウや蛙、ヘビ、イナゴなどがいたりして、子どもたちも楽しい、おとなたちも楽しかった。労働の達成感というか、喜びがあるんですね。

 大学時代の友達に話してみると、どこでも子どもが小さかったので「じゃあ俺の子にも体験させてみるか」となり、今年で十年続いています。秋田で始まってから三年目の時に「成田でもやってみたい」となって、子どもを中心に家族ぐるみで三百人から四百人くらいが参加するようになりました。七年になります。

 自慢するわけではないけど、うちの子どもたちは秋田と成田のお米ばかり食べているから、この間、学校の合宿から帰ってきて「ご飯がまずくて食べられなかった」と言っていました(笑い)。

 「刑務所あがりの男」の役を

 いま製作中の映画は「米作り」がテーマになっていますが、僕の企画ではないんです。実は自分で企画したいと思っているうちに、斉藤耕一さん(監督)が山形の南陽市で米を題材にした映画を撮っていることを聞き、ぜひ参加させてほしいと頼んだんです。

 映画の内容は、市民農園で米作りを教えている農家のところへ、脱サラした人や定年を迎えた人、都会で挫折した人たちが来て、集団で農業をやっている。そこへ都会から来た若者と娘さんとの恋が芽生えるといった物語が展開していきます。

 農園に逃げ込んでくる“素性を明かさない人たち”が、米作りを通して自然と向き合うことで、それぞれの人生を見直していくという映画です。

 僕は刑務所あがりの男の役で、映画『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』の主人公ではないけど、家族のもとへ帰っていく途中で、この米作りグループと出合い「俺にも人生を見直すことができるのかな」と勇気づけられるんです。

 田植えから刈り入れまでの農作業を通して、それぞれの人生を描いていきますので、完成は今年の稲刈りが終わってからになるでしょう。

 米は歴史と文化の基本だと気づき

 僕が米に関心を持つようになったのは、農家の人たちと話し合う機会が増えたことと、もう一つは三十歳そこそこの時、イギリスにホームステイしたことがありまして、その時に感じたことが原因になっています。

 イギリス人は議論が好きで、食事に三時間くらいかけて会話を楽しむんですね。僕はつたない英語で自分の生い立ちなどを語るんですが、日本の歴史には弱いんで困った経験をしました。

 農家の人たちと話していて「そうか、米というのは日本人の歴史や文化にとっての基本なんだ」と気がついたんです。日本の政治や経済の話になると、工業ばかりが前面に出てくるけど、農業を基準に考える必要があるんですね。

 世界の大都市にあり東京にない

 いま実現したいと思っていることは、東京に生産者と消費者が話し合える「青空マーケット」を作ることです。世界の大都市にはニューヨークでもロンドンやパリにも、そういったマーケットがあり、消費者が買える市場があるんです。ところが日本の大都市にはないんです。

 おや、東京・足立区に農民連の産直市場があるんですか? それは知りませんでした。

 もっと規模が大きくて、埼玉とか栃木とかの日を決めて開く常設のマーケットです。十年間、農家の人たちと交流してきた経験からも、青空市場というものを考えると楽しいではないですか。いろんな新鮮な食べ物が豊富に並んでいて、食べるとおいしい。「この野菜はどうやってできたの?」「旬は?」「これ安全なの? 農薬使ってない?」などと、対面で顔を見ながら話し合うことが大切ですよ。

 そのために自分が核になってもいいし、大勢の人たちに呼びかけて、ぜひ実現したいと思っているんです。こういう取材があると、必ずこの話をしてきました。私の夢の一つでもあるんです。

(聞き手・角張 英吉)
(写 真・満川 暁代)

(新聞「農民」2003.8.11付)
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2003年8月

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