「農民」記事データベース20030811-598-04

米「改革」関連予算案

自民の総選挙対策の政治臭プンプン
農民だましの“魔法”を解剖する〈上〉


 自民党は七月下旬、米「改革」関連予算の大枠を決め、農水省が自民党に代わって記者会見で公表しました。

 業界紙(米麦日報)が「魔法」と批評するこの予算案、自民党・農水省・全中が密室で協議し、総選挙対策として打ち出した政治臭プンプンのシロモノです。

 「総額三千億円確保」「転作助成現行上回る」――“勝利”ムードにひたっている向きもありますが、これで、米危機の打開ができるわけでも、「米つぶし改革」の害毒が帳消しになるわけでもありません。

 七月二十八日、農民連は食健連とともに農水省から説明を受けましたが、この内容を中心に、「魔法」を解剖します。

 本当に「総額3千億円確保」?

 「この予算が確保できたというわけではなく、これから財務省と折衝する」――農民連の質問に、農水省関係者はこう答えました。勘ぐれば、八月下旬に農水省が決める来年度予算要求で「三千億円」をぶちあげ、総選挙が終わった十二月に「財務省との折衝」で大幅に減額するという伏線ともとれます。

 また「三千億円」を確保できたとしても、「それがどうした!」という程度のもの。米関連予算は昨年が四千億円、今年は三千百五十九億円(表1)。減反を四%増やし、予算は五%削る――これで大いばりする方がどうかしています。

表1 米関係予算の推移
(単位:億円、万ヘクタール)

 

02年度
03年度
04年度
生産調整関係
稲作経営安定対策資金
担い手経営安定対策
集荷円滑化対策
2,278
865

1,751
682

1,755
502
102
100
小   計
3,143
2,433
2,459
その他米関係予算
892
626
?
米関係予算合計
4,035
3,159
3,000
生産調整面積
101
106
110

 3年後は「ガクッ」と減り、7年後はゼロ

 忘れてならないのは、この対策が「米改革実行プログラム」にそったものであること。「プログラム」は、七年後の二〇一〇(平成二十二)年に転作助成や価格補てんなどをゼロにする「米づくりの本来あるべき姿」を実現することを至上命題とし、その実現に向けて米・農業予算をどんどん削減することを求めています(表2)。

 
表2 「米改革」実行プログラム
 
平成16〜19年度
平成20〜21年度
平成22年度
農業者団体による減反
配分
 
生産数量目標を配分
産地づくり推進交付金
稲作所得基盤確保対策
担い手経営安定対策
18年に農業者団体に
よる配分が可能かど
うか検証・判断



20年には完全実施

 



 
米作りの本来ある
べき姿
 
 
 
 

 自民党案が対策期間を「三年間」にしたのも、その一環です。「三年間が終わった後に、かりに似たような対策が続くとしても、“リセット”によって、ガクッと下がるだろう」(農水省)。

 つまり「プログラム」の第二段階(〇八〜〇九年)に、転作助成や価格補てんが続くかどうか分からない、かりに続くとしても“リセット”(御破算)で「ガクッ」と下げるというわけです。しかも二〇一〇年からはゼロ――。

 これでは「朝三暮四」(猿のエサを節約するために栗の実を朝三つ、夕方に四つやろうと言ったら猿たちが怒ったので、それなら朝四つ、夕方三つやろうと言ったら大喜びしたという中国の寓話)ならぬ、「朝三暮零」ではありませんか。

 どうなる? 転作助成(産地づくり対策)

 「わかりやすく」するはずだった転作助成を、“中二階”を作ったりして「増改築を繰り返した温泉旅館」(食糧庁OB)のように雑多にしたことに加えて、「使い道や単価は都道府県・市町村協議会まかせ」にしたために、まったく「わかりにくい」ものになった――これが産地づくり対策の特徴です(表3)。

 
表3 産地づくり対策
(10アールあたり円)
産地づくり対策 交付単価の算定基準
 (1)基本部分
  麦・大豆・飼料作物  10,000
  その他一般作物     7,000
  特例作物等       5,000
  調整水田        2,000
  自己保全管理等     1,000
 (2)担い手加算
  麦・大豆・飼料作物  40,000
  その他一般作物    20,000
 (3)特別調整加算    (12,000)
  (減反の大幅な超過達成など)
あわせて実施する支援策
 (4)重点作物特別対策   13,000
  (麦・大豆の品質向上、耕畜連携等)
 (5)畑地化推進      80,000
  (農民の拠出で80,000円以上上乗せ)

 計算上は、十アール当たり最高額六万三千円にはなりますが、もらってみなければわからないのが実態です。

 農家個々への転作助成をやめることも

 産地づくり推進交付金の算定単価は表3のとおりですが、これをどう使うかは「市町村協議会で話し合って決める」――。

 農民連が「それならば担い手加算をやめ、全額を『基本部分』として農家に平等に払ってもいいのか」と質問すると「いや、それはまずい。ガイドラインで“しばり”をかける」という回答。

 さらに「農家個々に面積当たりで助成するのをやめるという決め方ならいい」とも。

 岩手県では、小規模農家が手持ちの農機を処分して「担い手」に作業を委託した場合、「稲作作業集積促進費」を加算する制度を七月に作りました(十アール千二百五十円〜七千五百円)。協議会が決めれば、交付金をこういう「刀狩り」に回すことさえ想定されます。

 3月までに「ビジョン」を作らなければ交付金は出さない

 交付金を出す条件は、来年三月までに、市町村あるいは合併農協単位で「地域水田農業ビジョン」を作ること。その中身は市町村や集落で話し合って、稲作を続ける者とやめる者をリストアップすることです。

 いま、市町村や農協の担当者が一番頭を痛めているのは、この点です。「集落で“あんたは米作りをやめろとか、農機を処分しろ”などとは言えない」「農業関係者なら皆、高齢化や担い手不足を憂えている。役人や御用学者が、ここに付け込み、農村に一番なじまないやり方を強要することにハラが立つ」(農民連の調査団に対し)――。

 机上で作った「米改革」プランの最大の弱点はここにあります。「米改革」の凶暴さと弱点をしっかり見抜きながら、集落や自治体で、農民と農村の寸法に合い、地域農業を本当に守ることができる「ビジョン」を作るために知恵をしぼり、地域の農民仲間と共同することが求められています。

 「畑地化」=究極の水田つぶし

 自民党案で急浮上したのが「畑地化推進」対策。

 「畑地化は『永久転作』であり、転作助成以上のメリット感がある対策として、十アール当たり十六万円を一時金で払う。国は八万円出すが、地域が八万円以上拠出することが条件だ。『地域の拠出』は農家のトモ補償を考えている。稲作を続ける農家が金を出し、『永久転作』する農家に支払うという考え方だ。規模は一カ所数十ヘクタールのまとまりを考えている」(農水省)。

 これは第一に、転作助成の「四階部分」どころか、究極の水田つぶしを農民負担で実施する冷酷な政策です。

 第二に「数十ヘクタールのまとまり」という条件からみて、中山間地域や人気銘柄生産地以外の水田など条件が不利な地域の水田を「永久に」つぶすねらいを持っているといわざるをえません。

 第三に、客土や畦の撤去などの「公共事業」づくりを新たにもくろみ、さらに客土には建設残土や産業廃棄物を使う意図さえあるのではないかという疑いも生じます。

 農民の抵抗で目まぐるしく変わった暴落補てん

 現在の稲作経営安定対策(稲経)は、旧食管法のもとでの政府買入による米価保障が廃止された後は、きわめて不十分ながらも米価の暴落に対する補てんの役割をはたしてきました(補てん割合は八割、拠出は農民一に対し政府三)。

 「米改革」の検討が始まった段階で、政府は稲経の廃止を要求しましたが、強い抵抗にあって、「米価下落影響緩和対策」に名前を変え、補てん割合は固定部分二百円+五割、拠出は農民一・政府一とすることを提案しました。

 今回、自民党は「稲作所得基盤確保対策」と再び名前を変え、補てん割合は固定部分三百円+五割、拠出は、固定部分は全額国費、変動部分は農民一・政府一とすることを提案しています。

 クルクルと目まぐるしく変わるのは、農民の抵抗が強いから。いぜんとしてきわめて不十分なものであることはいうまでもありませんが、「廃止」のねらいに比べれば、政府・自民党側が一歩も二歩も後退したことを見ておく必要があります。

 同時に(1)遅くとも二〇一〇(平成二十二)年には制度そのものを廃止するねらいに変わりはないこと、(2)米価をますます市場原理にゆだね暴落が進めば、「五割補てん」では破たんすること、(3)拠出割合が「固定額を含めて実質一対三になる」(自民党松岡農業基本政策小委員長)などという宣伝は、選挙目当ての誇大宣伝にすぎないことを指摘しておきます。

(新聞「農民」2003.8.11付)
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2003年8月

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