「農民」記事データベース20030811-598-01

香川県民の長〜い間の願い

食べたい 正真正銘のさぬきうどん

 「讃岐うどんは讃岐の小麦で」――香川県の特産といえば讃岐うどん。その香川県が、県単独でうどん向け小麦の新品種『さぬきの夢2000』を開発し、製粉業者や製麺業者、JAなどと連携して、小麦生産と地場産業の振興に取り組んでいます。


県産小麦新品種 「さぬきの夢2000」

県単独の開発でユメかなう

 人口百万人、車で一時間走れば県内のどこにでも行けてしまうという小さな小さな香川県。春の日照時間が長く、少雨の気候で、昔から小麦作りが盛んな地域でした。今でも一人あたりのうどん消費量は日本一。県内には九百軒のうどん屋がひしめくうどん天国です。

 ところが小麦作は輸入の増大で激減し、現在、讃岐うどんの原材料はASWというオーストラリア産小麦がほとんど。消費者の食品の安全性への関心が高まるなかで、地粉の讃岐うどんが食べたいという願いは、うどんの国、香川県民の長年の「夢」となっていました。

 この願いに応えて九二年、「さぬきの夢」の品種育成が始まりました。通常、小麦の育種は国の研究機関が行っていますが、あくまで讃岐うどんに向く県産小麦をと、県の農業試験場単独での育種事業でした。

 品種開発にあたっては、「県からの押し付けでなく、農家の作りやすさ、製粉・製麺のしやすさなど、皆が“これなら使える”という小麦に育てたい」(県農業生産流通課、加工・流通グループの大川俊彦さん)と、生産者や製粉、製麺など「実需者」もまじえて試食会・検討会が何度も行われました。

 「地元の食べ物の良さを知ってもらうことで、地域を見直し、ふるさとを誇りに思ってもらいたい」と、大川さん。

 二〇〇〇年には、こうして選りすぐられた有望系統を「さぬきの夢2000」と命名して品種登録申請。県内の製粉・製麺・農業者団体と県でプロジェクトチーム「県産小麦うどん開発研究会」を発足させ、製品化を進めてきました。

 〇一年からは県独自の「さぬきの夢」作付け支援策も始まりました。〇三年は「さぬきの夢」の作付十アール当たり三千円を助成し、一ヘクタール以上まとまって排水処理や土壌改良などの技術対策を行った場合は、さらに十アール当たり三千七百五十円を助成するなどの対策です。

 しかもこれらは、収穫量ではなく作付面積に対して補助するというのがポイント。「遊休農地が増えており、集落の農地をどう守っていくか、冬の田んぼの活用とあわせて“望まれる”小麦生産を振興していきたい。香川県は兼業も多く、小さな農家でも小麦が作れるように、バックアップしたい」と県農業生産流通課農産グループの松田由貴子さんは言います。

 また「さぬきの夢」を開発した県の農業試験場の苦労も大変なもの。データの蓄積こそ命という育種事業にあって、香川県ではそれまで米・麦の育種は行っていなかったため、まったくのゼロから研究がスタート。ノウハウを暗中模索しながら、メイズ法という育種技術で開発期間を短縮し、八年という短期間で品種を育成しました。

 主席研究員の多田伸司さんは「さぬきの夢の生産が支援されることになって、研究者として幸運だったと思う。でも今年は収穫前に雨が降りそうで、ヒヤヒヤした。赤カビ病や穂発芽も心配したが、無事収穫できてホッとした。この心配を毎年繰り返すんですね」と、まるで巣立ったわが子を心配する親のようです。

農民連で作付け大いに増やしたい

 しかし、そもそも「讃岐うどんは、讃岐の小麦で」という世論は、いったいどこからわき起こったのか?その答えは七四年から八六年まで続いた前川忠夫革新県政の時代にありました。

 全農林労働組合の委員長をつとめたこともある日本共産党の元県議の井上士(といち)さんは、議員の時、「輸入小麦で“讃岐うどん”は看板に偽りありだ。実態は“外国うどん”だ」と県産小麦の振興を訴え続け、これに真正面から応えたのが前川知事だったのです。

 香川農民連でも「さぬきの夢うどん」の取り組みが始まっています。三木町で「さぬきの夢」を二ヘクタール栽培する香川農民連の植村隆昭さんは、「少量でも製粉や製麺をしてくれる業者と相談して、私たち農民連で育てた“さぬきの夢”のうどんを作りたい。交流の場や、産直などで、うどんをどんどん広げていきたい」と、意欲満々です。


香川の小麦もっと作ってほしい

讃岐生麺事業協同組合理事長で、さぬき麺業株式会社社長 香川政明さん

 香川の小麦で、手打ちのうどんを打つというのは、うどん業界の長年の夢でした。業界としてもずっと要望していたんです。県が一大プロジェクトを組んで実現して、本当にうれしい。

 「さぬきの夢」のうどんは、淡黄色で色もよく、第一、風味が違うんです。練っていると、スーっと麦の香りがしてね。ASWにはないおいしさがあります。お客さんにはいっぺん食べてもらったら、しめたもんです。もうやみつきです。

 うちは去年の十月から七千五百キロ、十五万食分を「さぬきの夢」で作っています。いま、食べ物は安心、安全が求められていて、県内産ならどこで作った小麦かとてもわかりやすい。「さぬきの夢」で作ったと言うと、お客さんにもたいへん喜んでもらえます。

 香川県人は本当にうどんが好きで、行きつけをもたずに今日はこっちの店、明日はあっちと毎日食べ歩くんです。だから一番うどん屋の味を知っているのはお客さんなんです。うどん屋の方はヘタな物は出せませんからたいへんですよ。

 「さぬきの夢」でうどんを打つのは、慣れないとちょっとめんどくさいかもしれませんが、伝統の技術で作れば、何ということはないです。これからはおいしい製法の勉強会も必要だと思っています。農家もたいへんだと思いますが、香川では小麦をもっと作ってもらわなければ、足りない状況です。いい小麦なら少々高くてもお客さんも認めてくれます。ぜひたくさん作ってもらいたいですね。

(新聞「農民」2003.8.11付)
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2003年8月

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