8月は戦争と平和を考える月今年も多くの舞台に登場一九四五年の夏の敗戦からすでに半世紀以上が過ぎ、新しい世紀を迎え二年が経ちました。八月は戦争と平和を考える月、今年もまた多くの舞台が登場します。その中からいくつかを紹介します。
▽地人会・朗読劇「この子たちの夏―1945・ヒロシマ ナガサキ」広島、長崎の原爆による被爆者たちがつづった手記や詩などをもとに構成。子を失った悲しみ、母を失った悲しみ、いとしいものへの愛に満ちた言葉、それらが六人の女優によって朗読されていきます。優しく心を打つ言葉のなかに、死者たちの無念さや生きることの尊さが伝わってきます。終演後の交流会には出演者とともに構成・演出の木村光一も参加。出演は高田敏江、松下砂稚子、山口果林、日色ともゑほか。 *8月6日〜9日、東京・有楽町朝日ホール。料金2500円。連絡先=地人会電話03(3354)1279
▽民藝稽古場公演「地球という小さな星のうえで」二〇〇〇年十二月、東京で「女性国際戦犯法廷」が開かれました。この作品はその法廷をテーマに、ドラマティック・リーディング形式で展開。「従軍慰安婦」といわれる女性たちに対して、いまだに国は責任を認めようとしていません。「法廷」は、その責任を追及するために開かれたものです。作・石川逸子、演出・渾大防一枝。出演は岩崎ちえ、披岸喜美子、田口精一ほか。 *7日〜12日、川崎・民藝稽古場(麻生区黒川)。一般2000円。連絡先=民藝電話044(987)7711
▽木山事務所「はだしのゲン」原作は一九七三年から『少年ジャンプ』に連載された中沢啓治の自伝的漫画「はだしのゲン」。舞台化にあたり木島恭が脚色し、作詞を加えてミュージカル台本に仕上げました。公演のたびごとに演出面での工夫を重ねて、よりシンプルに、より重厚になってきています。ゲンの真っ直ぐな心の成長を描いた物語は多くの反響を呼んでいます。出演は田中実幸、田中雅子、広瀬彩ほか。 *8日〜10日、東京・新国立劇場小劇場。一般4500円、連絡先=木山事務所電話03(5958)0855
▽仲間「ふたりのイーダ」松谷みよ子の児童文学が原作。生と死をめぐる幻想的な物語に込められた、平和への祈りと未来への希望を静かに力強く問いかける舞台。夏休み、小学生の直樹と妹のゆう子は祖父母の家に預けられます。ふたりはある古い西洋館で「イナイ、イナイ…」とつぶやく不思議なイスに出会います。脚本・宋英徳、演出・鈴木龍男。出演は菊地勇一、勝倉けい子、片桐雅子ほか。 *8月9日午後1時半、東京都児童会館(渋谷)。前売2700円。連絡先=仲間電話03(3368)4623
▽俳優座・朗読「戦争とは…2003」毎年の恒例となった稽古場公演。朗読作品は、坂本龍一ほかの「非戦」メッセージ、ブレヒトの「ユダヤ生まれの妻」、増田昭一編「満州の星くずと散った子どもたちの遺書」、窪島誠一郎編著「無言館II」ほか。構成・演出は内田透。出演は岩崎加根子、高山真樹、神山寛ほか。 *11日〜13日、東京・俳優座5F稽古場(六本木)。一般2500円。連絡先=俳優座電話03(3405)4743
▽東演・朗読劇「月光の夏」毛利恒之原作の『月光の夏』をもとに著者自身が朗読劇として構成したもの。太平洋戦争の末期、学徒出身の特攻隊員ふたりが、今生の別れにベートーヴェンのピアノソナタ「月光」を弾き、沖縄の空に出撃していきました。その事実が、戦後四五年の年になって、佐賀県鳥栖市の小学校教師だったひとりの女性の証言で明らかになっていきます。演出・鈴木完一郎。出演は小高三良、能登剛、山田珠真子、江上梨乃。ピアノは廣谷昇平。 *14日午後7時、15日午後12時・7時、東京・北沢タウンホール(下北沢)。一般3000円。連絡先=東演電話03(3419)2871
▽東京演劇アンサンブル「ヒロシマの夜打つ太鼓」ヒロシマは原爆の被害都市でしたが、同時に中国大陸への侵略拠点の加害都市という一面をもっていました。舞台は宇品港のそばにあるうどん屋。そこに集まる太鼓連のメンバーをはじめフリースクールの教師たちが、日の丸・君が代や歴史教科書の問題など日常生活を語りあっていきます。移動演劇隊で被爆死した男の霊も登場して、過去を回想する場面も取り入れられています。作・演出は広渡常敏。出演は松下重人、浅井純彦、久我あゆみほか。 *29日〜9月6日、東京・ブレヒトの芝居小屋(練馬区関町)。前売一般4500円。連絡先=電話03(3920)5232 (鈴木太郎)
戦争の痛みわかってほしい東演・朗読劇「月光の夏」に出演する山田珠真子(すまこ))さん朗読劇という新しい形の舞台です。それだけに、ことばを大事にしたいと思っています。イメージがふくらみ、自由なひろがりをもってもらえるように、ことばで勝負することになります。 四人の語り手とピアノ演奏で構成されたシンプルな舞台です。一時間半の仕上がりですから、どこへでもでかけていって上演ができるという強みがあります。ピアノソナタ「月光」の全曲を聴けるのも魅力です。 戦争中に起きた事実にもとづく物語ですから、終戦日の八月十五日にこだわって毎年上演したいという計画をもっています。そのために劇団のなかでも何組かのグループをつくっていくことにしています。すでに若手グループが先行しています。 今回の私たちのメンバーでは初めての公演になりますが、若手とはまた違った味わいを出せるのではないかと思います。芝居というのは、その国のきれいなことばを伝えていく使命をもっています。朗読劇はとくにことばのよさを伝えるのに適しています。 最近、戦争への危機感を抱かせる状況がうまれています。しかし、戦争でいい戦争も悪い戦争もありません。苦しめられるのはみな同じです。正義の戦争といっても、そのために死んでいいという人はいないはずです。生きていてよかったと思う一生を過ごすことがいちばんいいのですから。 この朗読劇は戦争反対という声高な叫びはありませんが、語りをきいて想像力をふくらませて、戦争の痛みというものをわかってほしいと思っています。
未来をみつめ現社会を描く東京演劇アンサンブル「ヒロシマの夜打つ太鼓」に出演する公家義徳(こうけ・よしのり)さん私の役は登校拒否児童を受け入れるフリースクールを主宰する山村です。この作品は日の丸・君が代などの社会的問題を話すんだけど、それだけではないということ。広島が被害都市だけでなく、かつては加害都市でもあったという認識をもつことと同じで、自分たちの主張を一面的にしていると落とし穴があるんじゃないかということ。そのことを自分自身に問いかけてみようというのがポイントです。 イラク戦争が起こったとき、私たちは韓国で「走れメロス」を公演していました。戦争反対を叫んでいたけれど、止めることができなかった。戦争反対の気持ちと実際に起こった戦争との距離を感じました。そんな中で、芝居をするとは何だろうと考えさせられました。 この芝居の台本を読んで、せりふを発することが俳優なのか、ということを感じました。せりふの奥にこめられたものをどのように伝えていくのかという問題です。俳優としてだれかに伝えたいと思った瞬間に、花火のようにうかびあがるものが必要なんだ。いまこの瞬間に人間は生きている。その瞬間に凝縮されているものを舞台でつくりあげたいと思っています。 この作品の魅力は、なにかを一生懸命につくりだしていこうとする人びとの輝き、未来をみつめながらなにかをつくりだそうとしていることに自問自答している人びとの群像が描かれていることです。それは劇団のあり方、俳優ひとりひとりのめざしていることでもあるのです。舞台をみて共感してもらえればうれしい限りです。
(新聞「農民」2003.8.4付)
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[2003年8月]
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