環境にやさしい無農薬の米作り“ホタルの里”の勇気ある挑戦網野町農民組合を訪ねて初夏の夜には、ホタルが幻想的に舞い、羽化したばかりのトンボが大空に飛び立つ準備をしている。収穫を迎えた秋には、夕日のなかを赤トンボが群れ飛ぶ…――そんな農村の原風景を豊かに蘇らせる試みが始まっています。京都農民連は今年から丹後、綾部、美山の三カ所で無農薬米の試験栽培に取り組んでいます。除草剤を減らすことで安全・安心な米作りとともに、田んぼや地域の生きものがより豊かになる環境面での期待もあります。その一つ、丹後地方の網野町農民組合を訪ねました。
丹後、綾部、美山の3ヵ所京都農民連が試験栽培学習会がきっかけに網野町は鳴き砂で有名な琴引浜があり、夏は海水浴、冬はカニを食べに大阪や京都からたくさんの人が訪れる観光地です。 小石原隆二さんの試験田は、川沿いの平地にあります。「タニシがいっぱいおる」と指差す小石原さん。「タニシは去年もおったが、まだ違いはわからない」「いや、オタマジャクシは今年の方が量が多い」と集まった三人が話し合っています。ここ網野町では、小石原さんと、引野孝司さん、引野一成さんの三人が試験栽培に取り組んでいます。 小石原さんの田んぼは代掻きを二回行い、四・五葉の成苗を植えた直後に米ぬかペレットを散布して、一カ月間深水を維持してきました。この田に雑草は生えていません。 京都産直センターの代表理事を務める引野一成さんは「環境にやさしい安全な米を求める消費者の期待がある。農民組合として、無農薬で環境に優しい稲作りを、実践しながら論議して取り組んでいけたら」と抱負を語ります。 網野町農民組合では、これまでも防除に木酢液を使い、減農薬の米作りに取り組んできました。昨年、生産と流通を柱にした京都農民連の学習会で、「民間稲作研究所」の稲葉光國さんから米ぬかペレットを使う除草技術の話を聞き、試験栽培に取り組むことにしました。 三月には、京都府連が無農薬栽培の具体化に向けた会議を開催。府連のメンバーと稲葉先生とで相談し、ホタルを呼び戻すことを主眼に、無農薬米の試験栽培を丹後、綾部、美山で行うことになりました。 「無農薬は大変だが、消費者にアピールできる、特色あるもの作りを進めて販路を切り開いていく一つの試み。技術への関心は高く、昨年の学習会には、会員以外の農家や若い後継者も大勢きた」。こう話すのは京都農民連書記長の上原実さん。府連では、民間稲作研究所を通じて環境事業団に“ホタルの里作り”の名称で申請を行い、環境に優しい稲作りの試験栽培として支援を受けながら取り組みを進めています。
2、3年経験重ね続いて訪れたのは、山間地の引野孝司さんの田んぼ。「夜になると、ここから川の上を飛ぶゲンジボタルが見える」と孝司さんが五十メートル先にある川を指差しました。「この上流は昔からホタルが多い。小さな谷ならホタルのエサになる貝(カワニナ)の子どもで川底がまっ黒になる。この取り組みが進めばホタルもうんと増えるのではないか」と話します。 孝司さんの試験田ではオタマジャクシがあちこちで泳いでいたものの、コナギが生えてしまいました。しかし孝司さんは「水を深くしたら除草は可能だということが、おぼろげながらわかった」と感触をつかんだようです。 引野一成さんの試験田も山間地にあります。二枚のうちの一枚の田んぼには、たくさん草が生えてしまいました。一成さんは「条件によってできる田とそうでない田がある。環境保全につなげたいとの思いはあるが、そう簡単にはいかないと思う。二〜三年経験を重ね、こうやれば無農薬で環境に優しい稲作りができるということを組合員や地域の人に知らせたい」と話します。 網野町農民組合は昨年から、大阪の米卸に準産直米の出荷を始めました。一成さんは、「消費者や米屋さんからは、無農薬米や、稲木干しの米がほしいという要望もある。準産直ならこうしたお米を出荷できる。無農薬の試験栽培は府連でも十四〜五人ほどでまだ量が少ないが、農民組合としてこういう声にも応えていきたい」と今後を語ります。 さらに、「環境に優しい技術運動が進み、地域の中に共感が広がれば、地元の学校給食にもつなげていきたい」―一成さんはこれからの思いを語ってくれました。
(新聞「農民」2003.7.14付)
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[2003年7月]
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