「農民」記事データベース20030707-593-15

演劇

農民兵士の思い描く

「故郷へ―2003・夏」/東京・民族歌舞団荒馬座


 民族歌舞団荒馬座は、日本の庶民が暮らしのなかで育んできた民族芸能を舞台で上演している歌舞団です。この夏、平和をテーマにした「故郷(ふるさと)へ―2003・夏」を上演します。作品は二部構成で、第一部は『戦没農民兵士の手紙』(岩波新書)をもとにした朗読劇「もういいかいまあだだよ」、第二部は「秩父屋台囃子」など、いのちの躍動をうたう「民族歌舞集・故郷へ」です。荒馬座に入座して十年、演技班の中心メンバーとして活躍する中村志真さんに作品への思いをききました。

 平和テーマに2部作

 「自分たちがあらためて本当の戦争のことを考えたとき、あえて言葉で挑戦してみたいと思いました。『戦没農民兵士の手紙』を読んだとき、とても衝撃を受けました。戦場から家族にあてた生の声が胸にせまってきたのです。戦場にいけば人間が鬼に変わる。今日のたたかいはどうだった、とか、皇軍のやり方にそむけなかった、ということも書かれています」

 これまでも多くの人たちから戦争体験を聞き、特攻基地のあった鹿児島県の知覧に行くなど、戦争問題に深くかかわってきました。

 「今回は農民兵士に焦点をあてています。手紙を読んでみると、田畑の心配や身ごもった妻へのいたわりなど、思いはふるさとにあるんだ、と強く感じました。正直、手紙を書いた青年たちのこと、家族のことを、自分の思いと重ねると、どうにもやりきれない悔しさ、憤り、悲しさ、心の優しさを感じ、泣きそうになってしまいました」

 朗読の合間には「さんさ踊り」や「ひなこ剣舞」などが演じられます。

 「農民兵士たちは、農家の働き手であったし、地域をつくっていく大きな柱でした。また民族芸能のつくり手でもあったのです。その人たちが戦場にいったあとは女たちが引き継ぎました。私は、農村の生活そのもの、農に生きて、暮らしているそのものが芸能だと思います。芸能のリズムであったり、テンポであったり。私は唄が好きなので公演や取材で農村にいったときは、唄い手のそばまで行ってよく聞いています。明るさのなかに強さも厳しさも、唄う人の人生も滲んでいるんです」

 好きなうたは「水俣ハイヤ節」だといいます。

 「水俣病患者の女漁師さんとの出会いから、新しい『水俣ハイヤ節』をつくりました。水銀の公害で病む以前の水俣の自然や人のすばらしさをうたいこんでいて、今では地元でも踊ったり、うたわれたりしています。うれしいことです。日本の民謡の場合、歌詞のひとつひとつが深い意味をもっていて考えさせられます。人のやさしさや別れのつらさなど、人間の感情がこめられているんですね」

 この夏の公演には、平和行進でともに歩いた青年たちにも「いっしょに考えていこうよ」とよびかけました。

 「いろんな人にみてもらいたい。平和を求める手段に戦争があってもいい、というような声も聞きました。しかし、本当にそれでいいのですか? もう一度考えてほしいと思います。『もういいかい』というのは、戦場でなくなった人たちの魂がふるさとに帰りたいというよびかけです。そのよびかけに対して『もういいよ』とこたえることができるのか、まだまだ、こんな不安な世の中では迎えられないから『まあだだよ』とこたえるのか、ということです」

(聞き手・鈴木 太郎)

*公演案内=7月19日(土)午後5時開演、東京都児童会館ホール(渋谷駅東口徒歩7分)、 前売料金2800円(荒馬座扱い2500円)・当日3000円、連絡先=荒馬座03(3962)5942

(新聞「農民」2003.7.7付)
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2003年7月

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