産直協第15回総会朝どり野菜で地域に根ざしたもの作り丸果秋田県青果(株) 高橋良治社長の講演から
当社、秋田市中央卸売市場の丸果秋田県青果では、二年前から、朝収穫した野菜を午後のセリにかけ、夕方までにはお店に並び、消費者のその日の食卓にのぼるという「朝どり野菜」にとりくんでいます。一昨年の売り上げは三千万円でしたが、昨年は四千七百万円に増え、今年は一億円をめざしています。
勝ち残るには…なぜ「朝どり野菜」を始めたのか――。一つの理由は、九九年の中央卸売市場法の改正です。市場も今、規制緩和や構造改革といった問題で大きく揺さぶられています。秋田県全体で人口は百十七万人、仙台市の人口と同じくらいの小さい市場で、どうやって市場間競争に勝ち残っていくかという試練に立たされています。それには、地域に密着した特徴を持たなければなりません。 もう一つの理由は、日本の青果物流通の問題です。これまで、大きな量販店の動向が物流や価格を左右し「いつでも、どこでも、必要なときに何でも買いそろえられること」が消費者のニーズ、食べ方の便利さの追求だと言われてきました。 しかし私は、食生活や食文化は本来、人が育ち、暮らしている地域の環境や風土に根ざしたものだと思っています。例えば、全国に展開する量販店の東京や大阪の本社はマニュアルに従って、全国の店舗に「一月は、早春の香りを」などと指示します。でも真冬の秋田で早春の香りを楽しめるでしょうか。そのころの秋田の定番は、なべ料理を囲んで一杯やることです。 それから量販店は、例えばダイコンなら「青首」、キュウリなら「ブルームレス」、トマトなら「桃太郎」というように、同じ品種をつくる産地を南から北まで追いかけて商品を集める“産地リレーによる継続出荷”という仕組みをつくりました。そのことが、先人たちが品種改良を重ねて育ててきた、地域の気候や風土になじんだ野菜や果物を廃れさせています。季節や風土、土地の食習慣や食文化を無視したところに、食の楽しさ、喜びは生まれません。 秋田県の米を含めた農業全体の生産額は、一九八五年の三千百七十億円から一九九九年の二千百五十億円へと、十五年間で一千億円も落ち込みました。ご存知のように秋田県の農業の主力は米です。米の問題がそのまま、秋田県農業に暗い影を落としています。このまま秋田の農業は米だけに頼っていてはダメになる、もう一度、秋田に野菜産地をつくれないか、と考えて行き着いたのが「朝どり野菜」でした。 産地の条件はかつて、たくさんの量を継続して出荷し、規格等階級を厳しくすることでした。しかし、今さらそんなことを言ったら、野菜を作ってもらえません。そこで農家の母さん、地域の個人生産者といった人たちにもう一度、自分が作ったものをお金に変える楽しさを感じてもらおうと、「朝どり野菜」を始めました。
経営の柱の一つ朝、当社の運送会社のトラックが六系統に分かれて、県内を集荷します。一個しか荷がない農家にも寄ります。車代を考えると完全に赤字、トラックの荷台でダンボールが踊っていることもあります。実は一年目の売り上げの三千万円というのは、会社の販売額で見れば一日分の売り上げです。でも私は、「朝どり野菜」を会社経営の一つの柱として続けると社員に明言しました。 今年三月、二十五年勤めた会社を辞めて野菜づくりを始めた農家の母さんが「朝どり野菜をやってよかった。子どもたちが畑を手伝ってくれるようになった」といい、自分の手で野菜を育てる喜びと、作ったものがお金になる楽しさとうれしさの発見につながったと「朝どり野菜」を評価してくれました。これで少しは先の希望が見えてきたかなという気がしています。
自分の手と力で今、平鹿郡の里見というところの母さんたちがサトミナという野菜を共同で作っています。明日、食べ方の宣伝をしに市場に来るそうです。こうした、自分たちが作ったものを自分たちで売っていく、自らの地域を自らの手と力で守っていくことが、これからの本当の産地づくりだと思っています。
(新聞「農民」2003.7.7付)
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[2003年7月]
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