「農民」記事データベース20030609-589-01

住民の健康守って39年

“人のぬくもり感じる医療がうれしい…”

いま注目される山形・庄内医療生協の活動

 「患者や介護を受ける人の身になって、よりよい医療や福祉を」とがんばっている全日本民医連。そこに加盟する庄内医療生協は、地域世帯の六割を組合員に組織し、いま「安心して住み続けられる地域づくり」に力を入れています。


 地域に86人のボランティア

 水面を渡るさわやかな風が早苗をゆらす五月の庄内平野。山形・鶴岡市大山地区にある庄内医療生協大山診療所は、週六日、お年寄りが通うデイサービスを行っています。

 お友達とちぎり絵や造花づくりを楽しむその顔には笑顔があふれています。「昼食の後は昼寝をして、それから近くのお宮まで散歩に行く」と楽しそうに語るお年寄り。

 「ここの方々はたぶん一番幸せですよ」と、所長の堀内隆三先生は目を細めます。その理由は、診療所のスタッフに加えて、地域の人々が八十六人もボランティアで介護してくれるからです。

 そのうちの一人、阿部信子さん(66)は、「父や母のような人と接していると、自分が見えてくる」といいます。また、佐藤幸子さんは「これまでがんばってこられた方を私たちがお世話をする。やがて私たちがお世話を受ける。そういうつながりを将来にも残していきたい」

 ここでは、現代社会が失いかけている助け合う気持ち、人と人とのぬくもりが生き続けています。まとめ役の菅原久枝さんは七十五歳。それでも「人に与えることは失うことではない。得ることだ」との信念でボランティアに励んでいます。

 農村で食生活の改善・指導

 こうした“住民とともに暮らしと健康を守る”とりくみは、今年三十九年を迎える庄内医療生協の一貫した活動です。医療生協の誕生は一九六四年。新潟地震で大きな被害をこうむり、全国の民医連組織からたくさんの人が救援にかけつけ、物資が寄せられるなかでの設立でした。

 当時は五百二十九人の組合員と一人の医師。現在は、三万七千人余の組合員と二つの病院、二つの医科診療所と歯科診療所を運営するまでに成長しています。

 まだ小さい町病院にすぎなかった医療生協は、七七〜七八年、庄内地域で初めて人工透析とCTを導入します。脳卒中で倒れる人が全国トップレベルの同地域で、CTの導入は地域の人々を救う英断でした。合わせて、どんどん農村に入って食生活の改善・指導を行い、医療の充実と地域の活動があいまって医療生協への信頼は飛躍的に広がりました。

 病人を看る“心のケア”も

 庄内産直センター代表理事で、医療生協の理事も務める渡部正一さん(53)は、十七年前に父親を脳溢血で亡くしました。「初めに担ぎ込まれた市立病院は半年ほどで退院しろという。それで訪問看護などで医療生協を紹介されたんだ」。これが、渡部さんが医療や介護に関心をもって携わるようになったきっかけでした。

 もうひとつ、渡部さんには忘れられない出来事があります。「腹痛の息子を夜中に運び込んだが、たいしたことなかった。『こんなことで…』と小言を言われると思ったら、医療生協は『いつでもおいで』という。この一言がどれだけ患者や家族を安心させるか…」

 庄内医療生協の松本弘道専務は、自らの医療活動をこうとらえています。「病気とたたかうのは、あくまで患者本人です。医師や職員は、患者と一緒にたたかう相棒。私たちは病気を診るのではなく、病人を看るのです」。地域医療に携わる医療生協のこうした姿勢は、患者の身体の治療だけでなく、“心のケア”も大切にする医療へとつながっています。

 「一番誇れる活動は、保健予防活動」という渡部さん。医療生協の組合員は支部・班で日々の健康チェックにとりくみながら、健康講話や一人暮らしのお年寄りを対象にした「お食事会」などを開催しています。

 こうした地道な活動が実を結んだのが、地元の購買生協「共立社」などととりくんだ社会福祉法人「山形虹の会」の設立運動でした。わずか八カ月の間に約五千人から一口一万円で一億円の寄付金を集めて、百床の介護老人保健施設「かけはし」を建設。「かけはし」ではお年寄りの方々が畑で野菜を作りながら、痴呆症などとたたかっています。

 介護サービスセンター設立

 いま庄内医療生協がめざすのは、地域の暮らしを守るネットワークづくり。医療生協と「共立社」、「山形虹の会」、それに配食事業を行う「高齢者福祉生協」の四者は共同して総合介護サービスセンター「ふたば」を立ち上げました。

 そして――

 「現在は、老人アパートの建設に向けて協議を進めています。入所したお年寄りに、必要なヘルパーや配食、往診、訪問看護などを提供し、まだ四百人いる施設入所待ちの方々に満足な医療と介護、そして地元の米や野菜、魚を使ったおいしい食事を提供したい」と松本専務は語ります。

 九三年の米パニックのとき、医療生協は「ただでさえ食欲の落ちる患者さんに味や健康に疑問が残る外米は食べさせられない」と、組合員に飯米の中から現物出資運動を呼びかけました。足りない分は、庄内産直センターが引き受けて供給。この関係は今も続いています。

 松本専務はこう言います。「いま“ベッド減反”といって、ベッド数を一割減らさないと、国は資金を病院に貸しません。暮らし破壊の攻撃は、農業も、医療も根は一つです」。これに、「農民連の運動も、民医連の運動もベースは地ベタ。共同を広げて攻撃をはね返しましょう」と答えた渡部さん。二人の目は、まっすぐに明るく健康な地域の未来を見すえています。

(新聞「農民」2003.6.9付)
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2003年6月

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