作った物の値段を自分で決められる。すばらしいことおいしいコーヒーを届けられるのも誇りだ
「フェアトレードでは、作った農産物の値段を生産者自らがつけられる――これは本当にすばらしいこと。コーヒー作りはとても楽しく、おいしいコーヒーを届けられることを誇りに思う」――ブラジルの有機コーヒー農家、イバン・フランコ・カイシェッタさんが来日し、フェアトレード(=公正貿易)を進める学習会でブラジルのコーヒー栽培の現状を語りました。その講演の一部を紹介します。
ブラジルの有機農家イバンさんが体験語るコスト割れ九七年以降、コーヒーの生産者価格が大暴落し、いまかつてない「世界的コーヒー危機」が進んでいます。世界のコーヒー生産者は二千九百万人(うち八〇%が小農)で、生産国は後進国・中進国に集中しており、これらの国々では国家経済すら危機に瀕しています。 一方で、世界のコーヒー価格をたった八つの大企業(アメリカ、ヨーロッパ、日本)が決め、支配しています。コーヒーは今や石油に次ぐ国際投機商品で、コーヒーの木もないニューヨークで、六〇キロあたり三十〜四十ドルというコスト割れの価格がつけられ、生産者は借金漬け、農場労働者は失業、子供は学校にも行けない状況です。
「顔がみえる」生産者と消費者が直接に結ばれるフェアトレードは、このような巨大企業本位のグローバリゼーションに対抗する第一歩です。ブラジルには「カーラカーラ」という言葉(「顔と顔を合わせる」意)があります。たくさんの書類が揃わないと進まない認証制度ではなく、日本の産直のような「顔の見える」信頼関係が大切ではないでしょうか。 フェアトレードが進めば、窮状のもっとも深刻な小農に対する大きな支援になります。家族経営のコーヒー農家では、今でも家畜を飼って堆肥を作り、自分たちの食料も作って、農薬や化学肥料など外からの持ち込みがない、永続的な農業が営まれています。そのなかでコーヒーは年一回、唯一現金収入になる大切な作物なのです。自然との調和のなかからできた小農のコーヒーは本当においしく、こういうコーヒーに光があたることを願っています。
地球を守る私はずっと以前から、環境を破壊せず、すべての生物が共生できるような農業がしたいと考えていました。九四年に技術指導していた叔父の農場で、牛が残った農薬を誤飲して十二頭すべて死んでしまうという事件が起きました。これを出発点に私の農園でも有機栽培への転換を始めました。 有機農業はすべての生命を守る農業です。害虫もいますが益虫と共存しています。雑草もどんどん生やして刈り倒して肥料にしています。 また今、コーヒー園のなかにさまざまな樹木の苗を植えて、森林化させようと試みています(*コーヒーは本来半日陰を好む植物)。森林化すれば、ハチや鳥などさまざまな生物が集まって多様な自然になるし、落葉はコーヒーの肥料になり、表土も守れます。「一杯のコーヒーから、地球を守る」――コーヒーを通じて、たくさんの命と自然のエネルギーを伝えていきたいと思います。
フェアトレード
栃木・矢板アイガモ農法に感激イバン氏 有機稲作農家を訪問学習会に先立つ五月十一日、イバンさん、通訳の徳力啓三さんが栃木県矢板市の有機稲作農家の金澤良三さん宅を訪問しました。金澤さんは、十二年前に新規就農し、地鶏養鶏とアイガモ農法で水田一ヘクタールを耕作しています。日本フェアトレード委員会の沢野保男さん、農民連副会長の真嶋良孝さんも同行し、山菜のてんぷらや筍など心尽くしのもてなしを受けながら、楽しく交流しました。 金澤さん宅では、アイガモのヒナが孵化してちょうど一週間たったばかりで、一行はその愛らしさに大感激。このカモが苗の成長とともに大きくなりながら、田んぼで除草をするのだと金沢さんが説明すると、「ぜひこのパッチーニョ(かわいい小鳥たちの意)を一羽、ブラジルに連れて帰れないか」とイバンさん。 コーヒー栽培でも除草は大変な作業で、多くの大規模コーヒー農園では除草剤を大量に使っているそうですが、百五十ヘクタールにわたるイバンさんの有機農園では年四〜五回、すべて人海戦術で草を刈り、堆肥にしています。その人件費は膨大で、常時雇用七十人、収穫期などは二百人の人手が必要になります。 しかしイバンさんは言います。「いまブラジルの慣行コーヒー栽培ではコストの半分が農薬や化成肥料で、地域には収入の半分しか残りません。有機栽培なら農薬・肥料コストのほとんどが人件費になるので、地域の発展につながるのです」と。 またブラジルでは今、失業率が約二〇%と深刻で、最大都市サンパウロの人口千五百万人のうち四百万人が貧民窟に住んでいます。「有機栽培が進めば、コーヒー価格の暴落で離農した人が農村に戻って来ることができます。そうしていかなければ」とイバンさんは言います。 減反しながら輸入する日本の米政策や、南北問題、遺伝子組み換え、JAS有機の問題点などなど話題は尽きず、大きく盛り上がりました。
(新聞「農民」2003.5.26付)
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[2003年5月]
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