「農民」読者・稲田善樹さん(日本画家)が個展旧ユーゴスラビア 戦禍の後に
美しい国土を破壊した残酷な戦争跡を生なましく描く新聞「農民」の読者で、日本画家の稲田善樹さんが、「旧ユーゴスラビア 戦禍の後に」と題した個展を三月から四月にかけて、新潟、東京で開催しました。案内状には次のように書かれていました。 「ナイーブアートの生まれた国クロアチア ボスニア・ヘルツェゴビナ ユーゴスラビアを三カ月スケッチしました。メルヘンチックな美しい国に七年前戦争がありました。真剣に見ました。悲しい話をきました。考えました。私達の財産と美しい心と風景を略奪し破壊する戦争。卑劣で愚劣、残酷な戦争。二十一世紀こそ全ての地域から戦争をなくしたい」 稲田さんが昨年九月、旧ユーゴを訪れたのにはわけがありました。 一昨年九月十一日にアメリカで起きたテロ事件の後、攻撃されたアフガニスタンの子どものようすを知り、現地で絵を描き、売った収益で教育の資金にしてもらおうと考えたのです。しかし危険だとわかり断念。それならば、せめて「戦禍」を知りたいと旧ユーゴに向かいました。 「戦争の実相を知ったのは、五歳の時に広島で経験してから五十七年ぶり。短い期間だったが、筆を持つ手が走った」と語る稲田さん。ほとんどの作品は現地で描きました。美しさと破壊のすごさという対照的な景色に突き動かされたのでしょうか。修復できないまま残っている建物、知的な人々の表情など臨場感あふれる作品六十八点を展示。その多くが淡い色合いで、鑑賞する者の心を和ませます。 「日本に帰ったらすぐ展覧会を開いてくれ」とスケッチに応じてくれたオーケストラの団長に言われたそうです。旧ユーゴの紛争は、忘れ去られようとしています。 「現地の若い人たちは、また戦争があると思っているよ」と呟いた稲田さん。そのひとことが、妙に現実味を帯びて聞こえ、旧ユーゴで生きる人々の深刻さに思いを馳せました。 (村上)
(新聞「農民」2003.5.19付)
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[2003年5月]
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