田植え前、大ケガの仲間に救いの手田んぼはオレたちにまかせろ助け合い、大いにいいもの作ろう新潟・西蒲原農民連稲作の専業農家を突然おそった不慮の事故。しかも、よぎなくされた長期の入院は、田植えをひかえた最も忙しい時期。「助けてくれ」――SOSを発した農家の窮地を救ったのは、一緒に農業をやってきた農民連の仲間たちでした。
心強い応援で治療に安心して専念できた大喜びの会員「助けてくれ」仲間のSOS日本一の米どころ、新潟・越後平野の四月も終わり。霊峰の弥彦山が見下ろす一面の水田地帯では、あっちでもこっちでもトラクターが忙しく動き回り、乾いた土の田んぼを次々と空を映す水面に変えていきます。 田植えを目前にした代かきの時期、新潟・西蒲原農民連の石井晃さん(48)は、一カ月前のことを振り返りました。「大ケガをしたと聞いてすっ飛んでいったんだ。持ち前の気力で気丈にふるまっていたが、先行きを案じてか、少し緊張した様子だった」 石井さんは四月二日、仲間の今井健さん(54)の危急を聞いて、家に駆けつけます。前日に事故にあった今井さんは頚椎(けいつい)骨折の重症。約一カ月の入院が必要と診断され、石井さんに応援を頼んだのでした。
オレにも手伝わせてほしいそれから、今井さんの田んぼの準備が、石井さんから事態を聞いた農民連の仲間たちによって始まります。 「この春耕の時期は、一年で一番忙しいんだ。ハウスの温度管理など苗づくりに神経を使いながら、田んぼでは畦ぬり、田ぶち、代かきの作業をしなきゃならん」という石井さん自身も、五・七ヘクタールの田植えの準備を抱えています。そこで、手伝ってくれる一人ひとりの負担を考慮して、できるだけ多くの仲間に応援を頼むことにしました。 この呼びかけに、農民連の仲間たちが気持ちよく応じます。今井さんの田んぼに植える苗の種をまいた四月十日、「オレにも手伝わせてくれ」と、八人が集まりました。そのなかには、若い後継者の姿もあります。今年の税金運動で農民連に加入したばかりの会員が「オレは行けなくて申し訳ないが…」と言って、代わりに二人の息子さんをよこしてくれたのです。 培土を敷き、種をまいた苗箱を運んでハウスの苗床に並べる一連の作業を、役割を分担して流れ作業で進めていきます。今井さんの三ヘクタールの田んぼに必要な約六百四十枚の苗の種まきを、わずか半日で終わらせてしまいました。 「農民連のみなさんが自分のことのように手伝ってくれて、本当に助かりました。『仕事のことはオレたちがなんとかするから心配しなくていい。体を直すことだけに専念しろ』と言っていただき、こんなに心強く感じたことはありません」。妻の今井礼子さんの口からは、仲間への感謝の言葉が絶えません。
2人は結成時からの“同志”西蒲原農民連は、一九九七年、押しつけ減反に対するたたかいのなかで誕生しました。減反未達成者に対してペナルティーをかけるという農協の差別方針を、新潟県連の援助も受けて見事に撤回させたのです。 以来、「減反する人もしない人も、ともに考えよう日本の農業」を合言葉に、会員、新聞「農民」読者を増やし、大きく成長してきました。今井さんと石井さんは、結成した時からの、いわば“同志”です。
お前たちがうらやましい石井さんは、礼子さんと一緒に、十五枚ある今井さんの田んぼに目印を立ててまわりました。近くに田んぼがある、種まきに参加した仲間とは別の四人の仲間に、ついでに田ぶちや代かきをやってもらうためです。これを目にしたまわりの農家は、「お前たちは本当にいいグループだなあ」と、石井さんにしみじみと語ったそうです。 「日本一の米どころといっても、専業農家は一握りだ。昔はケガや病気をすれば親戚を頼ったものだが、今は勤めに出ている人が多くてそれも難しい。オレの親戚だって専業農家は一人だけ。だから、助けてくれる仲間がいるってことが、本当に心強いんだ」と、石井さんは言います。 そして今井さんは、四月三十日に退院。五月五日には、仲間の協力で田植えも終えることができました。 「『直すことだけ考えろ』という言葉に甘えて、治療に専念してこれた。田んぼも、天気に恵まれて苗の活着がいい。助けてくれた仲間のおかげだ。“ものを作ってこそ農民”を旗印に、農民連の仲間をもっと増やしたい」。おだやかな口調でこう話す今井さん。市場原理で農民を競争にかりたて、淘汰しようという小泉自民党農政のもとで、失わされてきた「助け合う」気持ち。農民連が進める「大いにものを作る」運動は、そういう心を取り戻すことでもあります。
(新聞「農民」2003.5.19付)
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[2003年5月]
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