「農地収奪とかくたたかう」道標『大阪の食・農運動とともに―私の言行録』(西野恒次郎著)を読んで遠藤 伴雄
都市(近郊)農業にとって、営農を続けるうえで開発に対峙していかに農地を守るかという課題は、宅地並み課税や相続税など土地税制問題と合わせて、避けて通れない基本的命題のひとつです。 池田勇人内閣が所得倍増の大風呂敷を広げ、田中角栄首相が日本列島改造論をぶちあげた一九六〇年から七〇年代にかけて、大阪と同様、神奈川の農業も農地の半分と農業従事者の六割を失いました。八〇年から九〇年代のバブル経済、「土地神話」を経て、農地面積はさらに半減し、県土面積の一割弱に縮小しています。 大阪の農民組合と著者が、この農地収奪といかにたたかったか。土地収用法をものともせず、機敏で柔軟な戦術を駆使した「千里ニュータウン」「大阪国際空港拡張」「泉北ニュータウン」のたたかいは圧巻です。ここには、農地収奪をたくらむ側の常套手段と、それとのたたかい方の原則が躍動的に紹介されています。 「公共の福祉」をふりかざし「土地収用法をかけるぞ」と脅かし、「あなただけは悪いようにはしない」とすかし、「生産緑地で農地は残せます」と空約束を連発するなど、収奪する側の狡猾な手段は今も昔も変わりません。 このたたかいでの私たちの悩みは、農地を守りたいという農民が少数派に追い込まれてしまうことと、情報が入らず農家がことの重大さに気がつくのが遅いという点です。 どんなに少数でも、手遅れと思われる時期からでも、相手の弱点をつかみ、知恵と勇気で農地を守るたたかいに多数の農民を結集していく大阪の経験は見事です。 こうした都市農民のたたかいの成果が、宅地並み課税反対、生産緑地の指定、さらには農業のあるまち作りへと発展し、いまや「農業と調和のとれたまち作り」は、各地の都市マスタープランや環境基本計画の重要な柱に位置づけられるようになりました。 全国各地で土地区画整理事業や再開発、公共事業による農地取り上げ問題で苦労している皆さんに、ぜひご一読を。 「農地収奪とかくたたかう」道標となる一冊です。 (神奈川県連・事務局長)
*一冊一八〇〇円 (新聞「農民」2003.5.12付)
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[2003年5月]
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