福島県霊山町農民連会員の首長誕生から6カ月――大いに語る大橋町長と農家のお母さんたち“胸張って誇れるふるさとに”こんもりとした雑木林の里山、山裾に広がる田畑や果樹園――福島県霊山(りょうぜん)町は「ふるさと」と呼ぶにふさわしい、中山間地の美しい農村です。この町に、二〇〇二年七月、農民連会員の首長が誕生しました。桃農家の大橋芳啓(よしひろ)さん(58)。仲間は親しみを込めて「よしひろさん」と呼びます。同じ福島県の出身で、大橋町長とは青年団時代からの古い仲間でもある農民連会長の佐々木健三さんが、大橋町長と大橋町長誕生に力を尽くした農家のお母さんたちを訪ねました。
――「やっぱ、出るから」。世間が「ムネオハウス」の話題で持ちきりだった昨年の六月、大橋町長が立候補の決意を妻の広子さんに初めて告げたのは、小さな実をつけだした桃畑での農作業中のことでした。二期目の町議(日本共産党公認)の任を投げ打って、町長選の告示まで三週間に迫るなかでの出馬決意でした。 町長 最初は、え? 僕が? 晴天の霹靂(へきれき)でした。議員の任期も半ばでしたし。 大橋久子さん ンでも勝てたのは、何といっても芳啓さんの誠実な人柄が周りに人を集めたんだよね。熱心な議員活動を皆が知っていたから、保守の人も“今の霊山を変えられるのは大橋さんしかない”って応援してくれて。 町長 今まで保守と思っていた方々が、立候補の要請に来てくださって、私も“胸張って誇れるようなふるさとにしたい”と決心しました。 ――一騎打ちの相手候補は町でも大きな土建業者。猛烈なしめつけ・ぐるみ選挙を繰り広げましたが、結果は二倍近い大差での大橋さんの勝利でした。
農村に広がる変化の波佐々木 霊山もそうですが、今農村では大きな変化が起きていますね。 町長 相手候補は“県や中央政府との太いパイプ”を大宣伝しました。でも町民が望んでいるのは違うことなんです。取材にきた新聞記者は、町なかでは“ミニムネオ”と呼ばれていると報道していました。 広子夫人 これまでつながりのなかった方々が本当に一生懸命協力してくれて、一緒に回ってくれました。家が留守なら畑に、畑にいなければ別の畑に案内してくれて。今度の選挙では“お茶飲んでいかんしょ”って話し込むことも多かったですね。“今のままではダメだ”と。こちらはビラ配りもしなければって焦るんだけど。(笑) 菅野孝子さん 農作業もすごく忙しい時季で半日キュウリを植えたり農作業して、半日ビラ配りしてね。 佐々木 当確が出た時は? 一同 間違いじゃな いかと信用しなかった(笑)。得票数が出て初めて皆がウワーッ、ヤッターッて。選挙期間中は確かに手応えはあったけど、お花とか当選した時の準備を忘れてたのよね。(笑) 孝子さん 私は運動に取り組んできた苦労を思い出して、知らず知らず涙が出た。四十年がんばって町長がとれたって。
皆の知恵を集めた町政を佐々木 着任して半年。感想は? これからの町づくりの抱負は? 町長 カネをかけるばかりでなく、人の力、皆の知恵を集めて町政に取り組んでいきたい。十月から十一月にかけて、役場でも窓口業務など第一線の職員と十二回ほど懇談をしているのですが、意外だったのは“住宅がなくて、結婚しても町外に住むしかない”という声が多かったことです。農家でも後継者夫婦は別世帯にする家も増えています。当面五十戸ほどですが、町内の業者と協力して建設の話し合いをしたいと考えています。 もう一つは幼稚園の設置と保育料の補助です。既存の設備を生かしながら、どう子どもをのびのび育てるか。若い世代がこの町に暮らして、子どもを育てられるような環境を整備したいと思っています。 孝子さん このまえ議会を傍聴したんだけど、芳啓さん、お金が無いと言うばかりでなくて、どうしてお金がないのか、これくらい余るから、これはできる、とか町民にわかるように説明してほしいんだけど。 町長 ハハハ。そうするよ。平成十三年度の町財政のうち八八・二%は使い道が決まっているお金なんです。 ――桃農家の大橋町長は、農協の桃部会長も歴任し、加工向け桃から生食用の“あかつき”という品種の桃を町じゅうで増やし、出荷額を七千万円から一億五千万円に伸ばした実績もあります。 町長 生産一筋に、いいものを作るんだという良い友人たちがいたのです。山梨や各地の市場など、仲間と日本全国どこでも、研修や売り込みに惜しまずに歩きました。良い桃が作りたかっただけで、ぜんぜん苦ではなかった。そういえば立候補を決意したのも桃畑でした。
どこにも負けない豊かな農業佐々木 いま、農業はたいへんな状況ですが、町の農政は? 町長 まずは畜産農家の堆肥施設の補助です。よその部分を削ってでも経営が存続できるように補助していきたい。 それから米政策です。国が放棄してしまった部分を直すように、徹底して取り組んでいきます。米が支えになって、野菜も作り、他の農産物も作ってきましたから、米の崩壊は農村の崩壊です。農村地帯の町村は国にもの申していく姿勢をもたなければ、さらに過疎が進んでしまいます。 佐々木 地域農業振興に直売や加工なども視野に入れていますか? 町長 生産はもちろん、直売・市場・加工、この三つの環境を作るのが大切で、大規模でなくても小さな規模でやれることがまだまだいっぱいあります。サルナシという果物があるんですが、五〜六本ずつでも町じゅうの農家で植えて、町の特産にするとか、工夫して霊山ならではの目玉を作りたい。 また高齢者を含めて皆が集まって交流し、そこには農産物もあるというような施設もいいですね。商工会でもそういう思いがあるので、農も商も一緒にやれたらと思います。 久子さん 私は加工所を活用しているんだけど、補助事業などを受けると、皆の折り合いをつけるのがたいへん。農家のお母さんたちは皆忙しくて面倒見られる人もいなくて、話し合う場も欲しいのだけど。 町長 それはすぐできるから、さっそくやりましょう。 霊山の人々は本当に勤勉で、一億円を超える品目も多く、どこにも負けない豊かな農村だと誇りに思っています。農民連も生産する人ばかりでなく、販売や加工をする人も広げてほしいですね。 佐々木 やればどんどん広がりますよ。頑張りましょう。
福島県霊山町 人口約一万人。山岳信仰の山として名高い霊山の麓に広がる典型的中山間地。主な農業生産は、米、イチゴ、桃、あんぽ柿、キュウリなど。農業粗生産額は三十億八千万円にのぼる。霊山太鼓など民俗芸能も多い。 (新聞「農民」2003.1.13・20付)
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[2003年1月]
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