そばを植えて地域おこし協西えいっこの会長野県望月町座敷のテーブルやいろりの周りに座ったお客さんが酒を酌み交わしながら交流し、ほんのりと緑がかった新そばにイワナ、郷土料理を食べながらにぎやかに歓談する人の輪があちこちに生まれます。そば粉一〇〇%の手打ちそばを食べに大勢の人が集まった「新そば祭り」を訪れ、そばで地域おこしに取り組む長野県望月町の「協西えいっこの会」を取材しました。
お母ちゃんたちの元気な声が「そば粉一〇〇%なのにシコシコしていて、腰があっておいしかった。ぜひまた食べに来たいわ」。友達に誘われ、祭りに初めてきたという五十代の女性の顔に、思わず笑みがこぼれます。この「新そば祭り」には、地元のほかに神奈川、東京、千葉などからも人が訪れます。家の座敷を開放した会場には会員の親戚や知人、さらにその家族や知人への口コミなどでたくさんのお客さんがやってきます。 「やあー、どーもお久しぶり」「来てくれてありがとう」と会のメンバーが明るい声で迎え、訪れた人と言葉を交わして歓談します。こうした明るい雰囲気を醸し出すのは会の活動を支えるお母ちゃんたち。そばのおいしさだけでなく、人間味あふれる温かい雰囲気のなかで、大人から子どもまで、人と人とが世代を越えて交流する。十一月二十三、二十四日の二日間にわたり開催された新そば祭りは、そういう場所になっていました。
週一回のそば打ちで交流深めて望月町協和にある協西地域は、町の南側にある蓼科山(2,530メートル)の中腹から町の中心部に向かって流れる八丁地川沿いに広がっています。耕地が多いものの、一つ一つの面積は小さい中山間地で、二百人ほどが暮らしています。事業農家や林業のほか、不動産の営業、土建業など、それぞれ仕事をしながら農業を営む協西地域の二十五人が、「えいっこの会」で活動しています。 会を立ち上げたのは、今から五年ほど前の九八年九月。きっかけは地域の有志で取り組んできたそば打ち教室でした。 蓼科山の裾野、標高八百五十〜千二百メートルに広がるこの地域で採れるそばは”霧下そば”と呼ばれ、風味があって質が良いといわれます。昔はどの家でもそばを栽培して石臼で粉にし、そばを打って食べていました。しかし、そば粉一〇〇%の十割そばを打つためにはそれなりの技が必要です。教室では地域でとれた良質のそば粉を使い、上田市でそば屋を営む大西利光さんを招いて、十割そばの打ち方を教わりました。その後も毎週一回のペースで集まってはそばを打ち、十割そばを打つための腕を磨きました。また、集まるたびに酒を酌み交わし、交流も深めてきました。
協同取り戻し、地域で支えあう「いつからだったか、誰が言い出したかよく覚えてないな」。ある会員が苦笑いしながらこう言うように、何度となく集まり、交流していくうちに「減反の田に共同でそばを播こう」「作るだけじゃダメだ、直に食べてもらおう」「花の咲く頃には花見をやろう」と話が進みました。 さっそく七月には共同でそばの種を播き、九月にはそばの花見祭りを計画。初めての花見祭りに向けて「えいっこの会」を立ち上げました。 「えいっこ」とは、この地域で「結い」(ゆい)という意味の方言。結いとは地域で田植えや稲刈りなどの農作業を互いに手伝い、冠婚葬祭も行っていた頃の助け合いですが、昔のように地域の協同を取り戻し、近所が支えあって楽しく元気に暮らせたら。そんな思いが込められているといいます。 協西でも高齢化で、減反の田んぼにそばや大豆を作れない農家が増え、農地がどんどん荒れています。会としてそれを引き受け、昨年は七町歩にそばを播きました。たね播きから収穫まで、会員が機械を持ち寄って農作業を行っています。 こうして収穫したそばは、山菜や若葉の芽吹く五月なかばのそば祭り、九月のそばの花見祭り、十一月の新そばが採れた時の新そば祭り、二月のお水が一番冷たい時においしいと言われる寒そば祭りと年四回開催する祭りの参加者に食べてもらいます。
夢を語り、助け合いながらさらに参加者には、会の応援団である「えいっこ友の会」への加入を呼びかけ、情報誌「えいっこだより」で活動の様子や祭りの案内などを伝え、地域を守る助け合いの輪を広げています。 このほかにも、清流の土手に繁茂した葦刈りに汗を流し、子どもたちが水と親しむ親水公園を整備したり、「よってけや」という直売所を作ったりして、自然を生かした草の根の地域振興と交流の場作りを進めています。 二〇〇〇年八月には多くの方々の支援を受けて「えいっこ亭」を建設。資金不足から内装は完成していませんが、地元特産の鉄平石で屋根を葺くことで、伝統技術を若い世代に引き継ぐ試みになりました。 会の事務局長を務める清水清さん(65)はえいっこ亭を眺めながら静かに語ります。「できればこれを常設にして、手打ちそばを食べてもらえたら。最低でも粉にして販売していきたい」。様々な困難をかかえつつも、えいっこの会のメンバーは「夢」と「希望」を語りあい、助けあいながら、地域おこしへの模索を続けています。
(新聞「農民」2003.1.6付)
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[2003年1月]
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