お見逃しなく安全なもの食べたいあなたに「菜の花らぷそでぃ」(青年劇場)
「菜の花らぷそでぃ」の脚本家高橋 正圀さんに聞く〔プロフィール〕(たかはし まさくに) 1943年生まれ、山形県米沢市出身。シナリオ作家協会、シナリオ研究所修了。第20回新人映画シナリオコンクール佳作入選。山田洋次監督に師事。主な作品にはテレビドラマ「まんさくの花」「はっさい先生」「のんのんばあとオレ」「鬼ユリ校長走る」「おじいさんの台所」「壁ぎわ税務官」他。松竹映画「祝辞」「釣りバカ日誌5、7」「ホーム・スイートホーム2」など多数。
「菜の花らぷそでぃ」のあらすじ
僕が初めて青年劇場の脚本を書いたのは、いまから十二年前の「遺産らぷそでぃ」(山下惣一著『ひこばえの歌』原作)ですが、非常に面白い原作でしてね。遺産相続の話ですが、突然叔父さんが相続を仕切りはじめて、主人公に向かって「兄弟たちに二百万円ずつ払えばお前は農家をずっとやっていける」と言うのです。主人公のためを思っているように見えますが実は《胆がある。農家ではほとんど相続をしていないわけです。現段階で相続をするためには、前の代の相続をしてからでないとできない。そうすると、その叔父にも取り分が出てくる。そういう《胆があって、主人公が抵抗すると今度は農業なんてもうやめてしまえと言い出すわけです。 この「遺産らぷそでぃ」が評判になりましてね、九七年までに全国で三百回も上演されました。それで姉妹編をという話になり、十年くらい材料を探したのですが、山下惣一さんの『身土不二の探究』(創森社)という随筆集なら芝居になるかもしれないと思いましてね。
チョコレートが主食の女の子!「遺産らぷそでぃ」では「農」を描いたけれど「菜の花らぷそでぃ」では「食」を描けないかと考えました。「身土不二」とは土と人間は一つだということですが、要するに地産地消です。その土地で取れた物を食べることが健康につながって、長寿の原因にもなるという思想です。現代の流通の中ではアナクロに思えるけど、でも逆に面白いのじゃないかと思って。 ちょうどその頃、NHKのトーク番組「十代の言い分・食生活編」で若者たちがふだん何を食べているか話していたのです。そのなかでは、納豆オニギリばかり食べている子、チョコレートが主食の女の子がいて、ダイエットでサラダぐらいしか食べない子は、夜になると目がかすんできて、風が吹くとよろけたりする。それでもスカートが緩くなるのが嬉しいと言っていた。まさに命がけのダイエットですよね。長寿とか健康とは極端に違う、そういう若い人たちとの対比も面白いかなと思いましてね。それで農というより、食そのものをテーマにできないかと思ったのです。
食の事件発生で台本書き直しもう一つはプレステかな。「ぼくの夏休み」というゲームソフトがヒットしたんですよ。「田舎暮らしのすすめ」なんて本もいっぱい出ているでしょ。田舎暮らしに対する都会人のあこがれを、グリーンツーリズムっていう形で劇に取り込むのも面白いかと。新しい観光業であるグリーンツーリズムで地域を活性化しようとするのが若者たちの発想だけども、親父は都会人を呼ぶという発想に違和感があって、それで親父たちとぶつかって、そこに息子がアメリカ人の恋人を連れてきて、これがまた火種になるのだけども。 二年半前はそれでよかったんです。ところが、二年間で雪印、狂牛病、毒野菜に偽装表示まで出てきましたから、台本は古くなるわけです。景気もここまで落ち込むとね、グリーンツーリズムなんてのんきなことを言ってられない世相になってきて、それでまた書き直さなきゃならなくなった。
“家”の問題をサブテーマに再演にあたっては、ほとんど新作を書くようなものでした。半分以上変えており、新しい人物も登場させています。 「菜の花らぷそでぃ」は、前の「遺産らぷそでぃ」の続編として作りかけていたので、登場人物はほとんど踏襲しています。そこに、まったく新しく父親の弟を出して、農家の持っている「家」の問題をサブテーマにしました。つまり、その弟は東京で家を買ったけれど、新建材とサッシ窓の家にはなんとなくなじめない。だから、その家を失うよりも自分が生まれ育った家がなくなることの方がずっとつらい、自分の原点をなくすようなものだと言うのです。農家の家っていうのはただ単に人が住む箱じゃないんだという意識があるんですね。 そういう重たい「家」というものを、果たしてアメリカ人の嫁が継げるかというのもまた一つの問題になってくるわけですよ。息子としても当然継げないと言う。しかし、今の日本の若い娘だって継げっこないと言う。家とか長男の嫁なんて言い方はもともと女の犠牲のもとに続いてきた制度だから、現代ではもう死語だと言う。そこでも親子は対立するわけです。父親の弟を登場させたことで農の重みが出て良くなったと思います。その構想が今年の四月くらいに生まれてきた。台本ができたのは九月中旬ですね。
舞台で食を考えてもらえたら「菜の花らぷそでぃ」を観ていただくことで、食について考えてもらえたらと思いますね。遺伝子組み換えの問題もそうだし、残留農薬の問題もそうですが、我々は人体実験されていると感じています。 「遺産らぷそでぃ」の時と比べると社会的状況がまるっきり違ってきていますよね。補助金や助成金をもらい、税金も少ない農家は一般の人からみれば優遇されていて、いわば怨嗟のまとだったんですが、でも今はまったく逆ですよね、安全なものがほしいという人がかなり増えてきています。そういう状況で食べ物のことを考えてもらえたらと思います。 (聞き手)森吉 秀樹
(写 真)西村 正昭
《青年劇場 高橋正圀作品連続公演》
▼日時 「菜の花らぷそでぃ」十二月十九日〜二十二日、「愛が聞こえます」二十三、二十四日 《本の紹介》
「遺産らぷそでぃ」高橋正圀戯曲集(影書房刊)
(新聞「農民」2002.12.2付)
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[2002年12月]
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