肉より重くて安いハム?その正体のカギは“水”
味付けし、熱処理し、スライスして包装したハムの方が、生の豚肉よりも安い値段で売られている。こんな不思議なことが起きています。なぜ手を加えたハムの方が安くなるのか。そのカラクリを解くカギは“水”です。 ハムづくりで生肉に調味液(ピックル液)を含ませる工程を、塩漬(えんせき)といいます。六〇年代までは漬け物を作るように、生肉をピックル液に一週間ほど付け込んで味付けしました。その自然な味付けが、強制的に肉の中にピックル液を注入する技術に変わってきたのが、七〇年代に入ってからです。
世に出た、ハム造りの記録ここに、BSE対策を悪用した牛肉偽装事件で解散に追い込まれた雪印食品が、操業当時、どんなハム、ソーセージ造りをしていたかを示すデータがあります。ずらりと並んだ注射針で生肉にピックル液を注入する「インジェクションの実態」を記録したものです。 たとえばJAS規格外のバックスロース(製品名)ハムの場合、四千四百三十キログラムの生肉がピックル液を注入後は九千百九十六キログラムに、ボンレス(同)ハムは千六百二十キログラムが三千四百四十九キログラムと、二倍強に増えています。もちろんこの後、懸吊―乾燥―冷却などの工程で水分が飛び、この倍率で製品になるわけではありません。しかし…… ハム類のJAS規格では、赤肉中の水分は上級のロースハムで七二%以下、標準で七五%以下と定められています。農水省の品質課では、「結果的に、生肉の水分の状態と変わらない値で設定されている」といいます。つまり百グラムの肉でつくったJAS製品のハムは、同じ百グラムかそれ以下ということになります。
ほとんどスライスして出荷雪印食品のデータでJAS標準の製品は、ピックル液注入後は生肉の一・六〜一・五倍です。この程度の注入でやっと、その後の工程を経て生肉と同じ重量に戻る、と考えることができます。これで見ても、ピックル液を注入して生肉の二倍以上にすることの異常さが分かります。 佐藤泰文さん(雪印食品一般労働組合書記次長)は、元雪印食品の埼玉県内の工場で装置管理課に所属し、製造ラインの流れを見てきました。 佐藤さんはいいます。「ピックル液を注入した後、そのままでは肉の細胞の中に入っていかないから、ステンレス製のタンクの中に入れて、真空ポンプでタンク内の空気を抜き、一晩タンクを回転させる。そうすると太ったハムの原料ができるんです」。「それに……」と、佐藤さんは続けます。 「JASマークの付かないハムは、ほとんどスライスして出荷されていました。水分をぎりぎりまで多く含ませているので、スライスしたときに肉汁が流れ出たりハムの中にぽっかり穴があく不良品がでたりします」。
大量に水を加える方法は…日本食肉加工協会の話では、「肉の中に水をたくさん入れようとしても、タンパク質がつかまえる水の量は決まっている。ただ、品質を度外視すると、大量に水を入れる方法はある」といいます。「水に溶かした状態で卵タンパクや乳タンパクなどを加えると、それが水をつかまえる」からです。 熱処理をしているので本来は縮まらないはずのハムが、フライパンで焼くと縮まる。ハムエッグをつくっていてハムを炒めたら、水が出てきて驚いた“水ハム”と呼ばれるゆえんです。 試しにスーパーやデパ地下の食品売り場に行って、豚ロースで値段を調べてみました(表1)。おおむね、生肉のほうが加工したハムより高いことが分かります。これも水増しの効果なのでしょうか。
昨年一年間のロースハムの生産量は、八万六千八百五十七トン。このうちJASマーク付きのものは一万三千九百七十二トンで、わずか一六%にすぎません(日本食肉加工協会調べ)。
おいしい、本物のハム・ソーセージ造りに励む「雪の浦手造りハム」の岩永剛さん長崎県大瀬戸町でハム、ソーセージを製造・販売している「雪の浦手造りハム」の岩永剛さん(57)はいいます。
食べ慣らされて忘れた味「私たちの手造りハムは、ピックル液(調味液)に一週間漬けてつくります。人間のこぶしくらいの肉に、中まで味をしみこませる程度に注射針で液を入れる人もいますが、それはハム製造の技術のうちです。大手のなかには、肉に水分を含ませて、ひどいのでは百グラムの肉を二百グラムにして売っているハムもあると聞きます。これはもう、技術をとおりこしてモラルの問題ですね」 ちなみに岩永さんたちの手造りハムは、百グラムの肉が七十五グラムから八十五グラムになります。「加工すれば重量が減るのが当たり前で、味が凝縮し肉本来の味が出るのです」(岩永さん)。 こんな手造りハムとは似て非なる、スライスされた安いハムをハムと信じて食べならされてきたことを、じっくりと考え直してみる必要がありそうです。
(新聞「農民」2002.11.25付)
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[2002年11月]
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