「農民」記事データベース20021104-561-06

「農協改革」の現時点(5)最終回

山本 博史


支所を活動の拠点に

=農協が協同を取り戻すために=

 一緒に何かをすることを「共同」というのに対して、「協同」は、「人々が心と力を合わせてともに働くこと」とされています。お互いに顔を知りあい、暮らしの実情を理解しあってこそ、心と力を合わせてともに働く協同が実現できるのではないでしょうか。

 協同組合は、たんなる事業体ではなく、人々が自分たちの要求を実現するための自主的な協同活動組織です。農民や地域住民による協同が基本となってこそ、協同組合としての農協が成り立ちます。逆にいえば、人々の心と力をあわせた協同がないところに協同組合が存立しているとすれば、それはたんなるビジネスになっていることで、そこでは株式会社との違いが不明確になるのは当然といえます。

 市町村区域や郡を越えて広域合併した農協では、生産条件も生活条件も地域ごとに異なり、農協全体が一つの協同組織となることには無理があります。こうしたところでは、農協の地域内に多数の協同の基礎単位が必要で、この協同の基礎単位が連合して農協が協同組合として成り立つのです。

 「火の見やぐら」論

 一九六〇年代のはじめ、旧農業基本法が制定され、そこに掲げられた「農業近代化」の担い手づくりとして農協合併助成法がスタートしました。当時の農協では、人々の協同を基本にすえた合併を進めるために、合併農協の「適正規模」がさかんに論議されました。その論議のなかでは、義務教育で親も含めてお互いに顔のわかる「中学校区」が適当だとか、「火の見やぐら」論などが出されていました。火の見やぐらに登って見える範囲ということで、火事になったとき、みんなで応援に駆けつけられる範囲という考え方でした。結局、当時の全中方針では、「組合員の意思反映ができる市町村範囲」の合併が適切であるとされました。

 一九八〇年代になると、金融自由化対策が農協合併の主目的とされ、国債の取扱いや組合員以外への貸付拡大の条件として貯金残高を基準とした広域合併が進められ、協同の基礎単位と農協組織が遊離する現象が全国に広がりました。県連と全国連の統合も推進されています。こうして、農協の組織対策が単協合併と連合会統合に集中し、肝心の組合員の協同が脱落してきます。農協がたんなる事業体に変質した原因は、ここにあります。

 ものを売っても「購買」

 農協では、組合員に生産・生活資材を供給する活動を購買事業と呼びます。この事業主体が組合員だから、販売でなく購買と呼ぶのです。その事業が株式会社になったら呼び名も変えなくてはなりません。みんなの力で借金を返せる農家を育てるのが、バンクとちがう協同組合金融の特色です。

 合併を契機に、ますます組合員から遠ざかる農協を、農民の協同組織に回復させるために、いま緊急なとりくみが求められています。合併した農協でも、支所を活動の拠点に位置づけるなど、組合員の要求にみあった新たな協同の基礎単位づくりを、地域農業の再建や自治体との連携強化とあわせて進めましょう。

(おわり)

(新聞「農民」2002.11.4付)
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2002年11月

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