「農民」記事データベース20020701-545-04

食の安全最前線

20年以上の歳月かけ、積み上げてきた

安心と安全のシステム

千葉県・房総食料センター

関連/消費者からの手紙


野菜作りの情報 すべて記録

 「安全・安心」を、言葉だけでなくシステム化して実行している野菜作り集団があります。二十年も前から野菜作りのきめ細かな情報を公にして、消費者にこたえてきた農事組合法人・房総食料センター(千葉県、百十九戸二百五人、越川洋一理事長)です。

 「私たちは、畑ごとの栽培記録を作っています。だれが、いつ、どのようにして作った野菜なのか。消費者に聞かれたときに、きちんと答えられるように、こつこつとすべての記録を残しているんです」

 専務理事の椎名二郎さん(50)の話は、自信に満ちています。

 なにしろ、きのう・きょう始めたことではありません。食品の虚偽表示やBSE問題、輸入野菜の残留農薬が騒がれるずうっと前から、二十年以上かけて積み上げてきたシステムだからです。

 消費者に応える五つの安心

 食料センターはこの仕組みを、“五つの安心”と呼んでいます。

 その第一にあげているのが、「野菜作りの約束ごと」です。どんな品種でいつ種をまくか、肥料や農薬は何を使うか、規格はどうかなどなど。

 この約束ごとは、品目ごとの部会を開き、作る人全員で相談して決めます。品目だけで四十八あります。

 部会もその数だけあり、春夏はトマト、カボチャ、ズッキーニ、オクラを、冬はコマツナ、サニーレタスを作る浅野卓さん(50)は、六つの部会に出なければなりません。「それだけではないんです」と浅野さんはいいます。「講演会、作付け前の勉強会、出荷前の査定会、畑回り、そして反省会もある。一つの品目で五回から六回の会議がある」。

 部会では、農薬や化学肥料を減らすことを前提に、どう工夫していくか知恵を出し合います。生産者が希望する価格など、販売の問題もここで相談します。会議は、畑仕事を終えて、夜七時から十時近くまで続きます。傍目には、すごく大変なことに映ります。

 だけど浅野さんたちにとっては、なんでもないことのようです。

 裏づけて得られる信頼が

 「二十年も前からのことで、とくに苦労ということはない。看板だけでなく、裏づけがあって初めて得られる信頼ですから。化学肥料や農薬を自由に使っていたときと違って、肥料の効き方の違いに戸惑ったり、病害虫にやられたり、ロスを出したりしたけど、値段での評価しかなかったころとは、やり甲斐が違う」

 “第二の安心”は、「野菜の生育過程を記録する」ことです。どこの畑で、どの農薬を、どう薄め、いつ撒いたか、どんな肥料をどれだけ使ったか、などなど。

 毎日畑に出て、記録をつけることが苦手な農民が、果たして記録を残すことができるのか。最初は不安でした。だけど話してみると、農民は来年の作付けのために、日めくりカレンダーや手帳などにメモをしています。問題はそれをどう正式の記録にするかでした。

 房総食料センターは「記録がなければ、出荷はしませんよ」と突き放します。もちろん、最初は非難ごうごうでした。

 「生産者を信用していないのか」

 「生産者が作った中身について、説明する時代がきている。安心・安全の情報を公開していくことは大事なんだ。記録がなければ情報公開はできない」

 「消費者のわがままで、なぜ俺たちは面倒なことをやらされるのか」

 最初のころはそんな議論を重ねてきました。それが今では……

 主なものだけで、冬はホウレン草、夏は枝豆、モロヘイヤを作っている田山博之さん(28)は、農業を始めて今年で四年目。その田山さんも「丹念に栽培記録をつけたり、会議や勉強会などに出ることも、親の代から受け継いでやっているので、当たり前だと思ってやっています。二十代の仲間は十人くらいいるが、みんなこれが農業だと思って抵抗なくやっています」といいます。

 “第三の安心”の出荷割り振りはユニークです。どの生産者の作物がセンターを通してどこに届けられるのか。それを分かるようにしたのが、「生産者が袋詰めにして出荷先別に分け、センターに出荷する」仕組みです。

 残留検査し安全チェック

 “第四の安心”は残留農薬の検査です。百十六項目の農薬成分を検査します。残留農薬が安全基準を超えた場合、出荷を停止し、なぜ残留したのか原因を調査します。

 椎名さんは「チェックして農薬が出ることもあり、生産者はそれを嫌がる面もある。心の中での葛藤でしょうね。私たちは、抜き打ちで検査しますから。農薬の使用回数を減らし、使用禁止期間を守り、決めた農薬以外使わないという決まりを、ちゃんと守っていたら出ない」といいます。

 野菜の一袋ごとに入れた緑色の「生産者カード」は、生産者のメッセージを書くだけでなく「品質保障」を兼ねています。“第五の安心”です。この緑のカードは、生産者と消費者をつなぐ交流の役割も果たしています。

 栽培記録を報告集にまとめたりするだけで、職員十四人のうち二人を専属にするほどのコストがかかる、といいます。それでも「安心・安全」にこだわり続けるのはなぜか。

 今年一月に子どもが生まれた田山さんは「娘には農薬漬けのものは食わせられない。その延長で作っていれば、消費者に届ける野菜も、おのずと安全なものになる」といいます。

 同時に、「自分たちが作る自慢の野菜を売るために、その自慢の中身を消費者に伝えるんだ」(椎名さん)という生産者の誇りがありました。


感動がいっぱい詰まった

消費者からの手紙

 消費者から生産者への手紙は、いろんな形で年間五百通ほど届くといいます。その一部を紹介します。

 ○…カブとシーチキンでシチュー風煮物をつくりました。絵本の『大きなカブ』を思い出すような気持ちでいただきました。大地のエネルギーに感謝。(東京都多摩市)

 ○…先日、近くのスーパーで買った「さつまいも」につきまして、今まで食べたことのないすばらしい味だったので、お便りいたします。どんなに工夫をされ、苦労されて作り上げられたことでしょうか。作る工程は消費者にはわかりませんが、私は食したときに○○さま(生産者)のお心を知ることができました。ありがとうございました。(旭川市)

 ○…先日スーパーでホウレン草を買いました。大きくて新鮮です。袋の中に生産者、○○様のメッセージが入っておりました。一生懸命野菜作りされておられる様子が書かれてありました。とてもおいしく安心していただいております。(釧路市)

 ○…太くて柔らかなネギをおいしくいただきました。丹精込められて作られる様子がよく伝わってきました。(名古屋市)

 ○…緑色の(カードの)言葉に、姿が見え、顔が見えるような気がして感動し、安心していただいております。何よりもおいしいです。今後もおいしい安全な野菜作りにお励みいただきますようお祈りいたしております。(秋田市)

 ○…今回は縁がありまして大変においしいおいもをいただけて有難うございました。品質のよさには感動いたしました。(富山市)

 ○…最近の食物は輸入品ばかりで、日本にしかない本当の味が忘れられてしまうこの頃です。昔食べた野菜独特の香りが今ありません。

 またこんな野菜にあえるといいですね。(東京・中野区)

(新聞「農民」2002.7.1付)
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2002年7月

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