炭やき農民のすすめ(4)杉浦銀治
茶の香り♪夏も近づく八十八夜トントン――。日本の茶摘みの原風景をうたった歌である。茶道では「三炭三露」という言葉があるように、炭は茶事にとって重要である。千利休は四百年前に「炭点前」の作法を創作した。美意識を求める茶道にあって、炭とはいえ美しくないといけない。茶の湯炭には、真円に近く、切り口に菊の花のような割れ目(菊割れという)が入るクヌギの若木が重用される。火つきがよくあかあかと燃えて、湯の沸きと炉内の風景もよい。茶の湯炭は、大阪の池田炭と千葉の佐倉炭が東西の横綱だったが、今はその面影はない。 製茶の熱源もかつては炭だった。炭は臭いや水分がなく、茶の仕上がりがよい。茶の産地、静岡県の茶業組合は、昭和の初め頃に茶の古木を炭に焼ける大正窯を作ったりした。 茶の栽培にも、炭・木酢液はよい。静岡県清水市の村上国男氏の親子は化学肥料なしの自然農法を三十年も実践するかたわら、世界中の茶どころを研究・調査している。川根町の川野久司さんも、薄めた木酢液を葉面散布して防虫・防菌をしている。 特殊な例として、茶園の場合、木炭に水溶性のアルミニウムを加えて施用すると、樹が元気になり立枯病の防止になる。また、葉の無機成分の増加で味と香りが向上する。この実験を十三年前に行った。 茶の地上部の成長には水分が多いほうがよいが、地下部では、相当深くまで伸びる根が酸素欠乏にならないようにする必要がある。そのために多孔質の炭は役に立つ。また木炭の孔隙は、VA菌根菌の増殖を促進する。VA菌根の菌糸は土の中に広がり、水に溶けたリンやカリその他のミネラルを集める。とくにリンの吸収力が強いのが特徴で、木炭の施用によって施肥の回数を減らすことができる。 古い茶樹を現地で「伏せ焼き」することで土づくりができる。施用量は木炭粉(一〜十ミリ)を一平方メートル当たり二百グラム〜一キログラム。七対三の割合で有機堆肥と混合施用すると芽の軸が太くなり、葉の厚みも増し、そのうえ味も苦味が抜けておいしくなる。
(新聞「農民」2002.5.20付)
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[2002年5月]
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