有事法制“戦争の時代”に逆戻りはごめん忘れられない痛苦の体験 徴兵・土地取上げ・強制供出…/アメリカが起こす戦争に動員が目的
「国家総動員トハ戦時(戦争ニ準ズベキ事変ノ場合ヲ含ム)ニ際シ…人的及物的資源ヲ統制運用スルヲ謂フ」――。一九三八年に制定された「国家総動員法」です。これとよく似た有事法制三法案(「武力攻撃事態法案」「自衛隊法改正案」「安保会議設置法改正案」)が、いま与党・小泉内閣によって国会にかけられています。 国家総動員法が制定された三年後に、日本は太平洋戦争に突入しました。有事法制は、まさに“戦争前夜”の代物です。過去の過ちを二度と繰り返すわけにはいきません。 「武力攻撃事態法案」は、武力攻撃の「おそれ」がある、あるいは「予測される」と政府が判断すれば、自治体や公共機関、民間人を総動員できるようにする法律。その第八条は「国民は、…必要な協力をするよう努めるものとする」と規定し、協力しなければ罰則を課せられます。これは戦争に反対する者を犯罪者にして処罰することに他なりません。 農家も例外ではなく、自衛隊法が改悪されると自衛隊は陣地構築などのために農地を収用することができるようになります。さらに、「生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置」について政府が決める「基本方針」によって、国家総動員法にあった食糧統制、強制供出が復活することも。 先の戦争では、多くの農村の男性が戦場に駆り出され、尊い命を落としました。残された女性やお年寄り、子どもたちは、男手を奪われたなかで必死に働いて作った農産物を強制的に供出させられました。その痛苦の体験を、二人の農民連会員に語ってもらいました。
男手をうばわれ農地は荒れて…石倭 一さん ―82歳―(栃木・石橋町)私は、北支那に派遣されてひどい下痢になり、終戦の一年前に帰還させられた。同年輩の人たちはニューギニアに行かされ、ほとんどが帰らぬ人となった。私は帰ってきて食糧増産隊に加わった。食糧増産隊は、小学校が終わった十五〜十六歳の少年を集めた軍隊組織の農村版だ。四十〜五十人が一つの小隊を作り、夏は荒地を鍬で開墾、秋は稲刈り、冬は暗きょなど土地改良をやって、一週間ないし二週間で県内を転々とした。どこも若い男性が兵隊にとられて農業生産力が落ち、極度に食糧が不足していた。経営の見通しが立たない農家もたくさんいた。 食糧増産隊の生活も、食うや食わずで重労働をさせられ、集団生活だったからカイセンという皮膚病にみんなやられて、ひどいものだった。もう耐えられないと、裸で鬼怒川を泳いで渡り、逃げ帰った子もいた。 食糧不足で、土地と米を交換する農家もいた。山林は、タキギを採ったり、草を家畜のエサにしたり、落ち葉を堆肥の原料にしたり、農業経営の重要な役割を果たしていたが、食べる米がなくなって、その大切な山林を大きな農家に売って、かわりに米を手に入れた。 いま、デイサービスでよく会う八十歳くらいのおばあちゃんは、嫁いで来て六十年、重労働の生活は「涙なくして語れない」という。有事法制はこのおばあちゃんの人生を台無しにするものだ。
保有米以外は残らず供出強制根本 恒さん ―73歳―(茨城・藤代町)俺は、満蒙開拓義勇軍に参加するために内原町の訓練校にいる時に終戦を迎えたが、満州に行っていたらどうなっていたか。当時は、「右を向け」と言われれば、よくても悪くても右を向かなければならない、たいへんな時代だった。米の供出もそうだ。稲が稔るころになると検見をやる。町の偉い人らが田んぼを回って、「この田は何俵とれる」と言う。厳しく見る。いくらよくても、それを上回らないし、下手をすればずっと下回る。そこから家族構成に応じて割り当てられる保有米を引いた残りは全部供出させられる。 「俺のところはとれなかった」とか、「子どもが大きくなって足りない」とか泣き言を言ってもダメだ。親類にあげようと取っておいた米が見つかって持っていかれたりもした。子ども心にも、たいへんだったと記憶している。 肥料も配給制だった。足りないので、田んぼの畦や道路端の草を鎌で根元まで掘って自分の田んぼに入れた。だから舗装道路のようにきれいだった。 この辺の田んぼは乾田なので、冬になると農家が起こした田んぼに、近くの高射砲の兵隊さんたちが、自分たちの食糧にするためにジャガイモを植えた。それを収穫してからだから、田植えが遅くなるし、土もやせ、よけい米がとれない。でも、当時は断るわけにはいかなかった。 万能と鍬と鎌だけで、みんなが自分の食いぶちを確保するのに必死だった。それでも満足に食べることができなかった。あの頃に戻るのは、ごめんだ。
畦道から宣伝カーで茨城農民連が「反対」訴え茨城農民連は、連日、有事法制反対の宣伝にとりくんでいます。田植えで忙しい時期ですが、農家が田んぼに出ている今こそ宣伝効果があると、宣伝カーを走らせています。(写真〈写真はありません〉)五月七日は、県北農民センターの鈴木孝夫事務局長が「アメリカが起こす戦争に日本人を引き込む危険な法律案がいま国会で審議されている。平和と権利を守るために声を上げ、力を合わせましょう」と、田んぼの畦道から訴えました。
アメリカが起こす戦争に動員が目的なぜいま有事法制か――。アメリカが起こす戦争に日本が参戦することを想定して、それに国民を総動員するためです。小泉首相は、五月七日の衆院特別委員会で、アメリカのラムズフェルト国防長官が「ときには先制攻撃も必要になる」「戦争をも辞さない覚悟を持つべき」などと語っていることに対して、「理解する」と述べました。日本共産党の志位和夫委員長の質問に答えたもの。「備えあれば憂いなし」どころか、有事法案は、先制攻撃をしかけることを公言してはばからないアメリカに、どこまでも追随するために出されてきたもの。アメリカの無法にきっぱりとものを言い、憲法九条を守って世界の平和に貢献する政府へ、日本の政治の転換が求められます。
(新聞「農民」2002.5.20付)
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[2002年5月]
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