足尾の山、再生しようと松の根に“炭”埋める
「炭で足尾の山をよみがえらせよう」――。本紙に「炭やき農民のすすめ」を連載する杉浦銀治さんら「国際炭やき協力会」と「森林(やま)の会」は、四月二十一日、渡良瀬川源流域の弱っている松の根元に炭を埋めました。かつての銅の精錬で出たばい煙(亜硫酸ガス)によって汚染された足尾の山を再生させようというとりくみで、今年で三年目。小雨が降るなか約三十人が参加しました。 群馬県桐生市から栃木県足尾町へと登っていくわたらせ渓谷はいま新緑がまっさかり。しかし、廃墟となった足尾銅山の精錬所の煙突が見えるあたりから黒ずんだ岩肌がむき出しになり、さらに登って営林署のゲートをくぐると、立ち枯れた木々のなかに少しだけ若葉をつけた木が目立つというように風景が一変します。 「森林の会」の宮下正次事務局長は、「いったん不毛の地と化した山に覆土して植林したが、木が生長し、根が汚染土壌にたどりつくと枯れてしまう。pH三・一〜四・一の強酸性だからだ」と言います。炭を埋めるのは、炭が酸性土壌を中和し、土壌中の微生物を活性化させるからです。 最盛期には日本一の生産量を誇った足尾銅山。その一方で、廃液を垂れ流して川を汚し、ばい煙をまき散らして山を枯らし、渡良瀬川の氾濫を引き起こして大量の汚染土壌を田畑に押し流しました。これが足尾鉱毒事件です。国は、かつての谷中村を水没させて広大な「わたらせ遊水池」を作り、洪水の再発は防ぎましたが、足尾の山はまだ再生されていません。 汚染された山の面積は六千ヘクタール、激甚地域だけでも二千五百ヘクタールといわれます。「一生かかってもやりきれないと思う。だけど一本でも多くの木を救いたい」というのは、地元で中心になって活動している金子文雄さん。金子さんは群馬県東村の木工体験施設「わらべ工房」の所長を務めています。 その金子さんに呼ばれて見せられたのは、黒光りする鹿の糞。鹿が炭を食べて排泄することで、手の届かない山の奥まで炭を運んでくれているというのです。また、あちこちで「ミミズが見つかった」という報告もありました。一度失った自然を再び取り戻すのは容易なことではありませんが、着実に前進しているようです。
(新聞「農民」2002.5.13付)
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[2002年5月]
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