炭やき農民のすすめ(3)杉浦銀治
炭で冷害を避ける初夏から盛夏にかけて北日本で吹く、冷たい北東の風をヤマセという。気温が上がらず稲が冷害にあうので昔から恐れられている。気象庁は四月十日、今年はエルニーニョの恐れありとの予報を出した。エルニーニョは、日本では冷夏に関係があるとされるので心配だ。岩手県の指導所は、広い耕地に網を張ったり、防風帯を作ってヤマセ対策を真剣にテストしてきたが効き目はなかった。そうしたなかで一九八一年(昭和五十六年)に岩手県久慈市で行った木炭施用試験が、思いがけず冷害を回避することになった。この年は、八〇年から八三年まで四年続いた冷夏の二年目。三陸地方の久慈市は、ヤマセの常習地帯である。陸中農協組合長だった故・三河源三郎氏(元岩手県議)の五十アールの所有田で、関則明・久慈文化燃料社長らとの共同実験だった。 木炭粉(三ミリ以下)を代かきのときに十アール当たり五十キロ散布。その後、アキヒカリを手植えした。この年は七月まで低温と日照不足が続き、茎は細く、生育は総じて十日遅れた。そうしたなかで木炭粉施用区の稲は、茎が太くしっかりしている。外見が良いので根張りを調べたら、細根が多く根全体が充実している。出穂二週間前の一株の茎数は、施用区が二十九本(うち無効茎二本)、対照区は二十五本(うち無効茎五本)だった。 出穂後は天候が戻ったが、木炭粉施用区が十アール当たり七俵(60キロ入)収穫できたのに対し、対照区は五俵以下と、大きな差が出た。冷害を予想しての実験ではなかったが、当時の「岩手日報」が一面で大きく報じたことを思い出す。翌年も同じように、炭のおかげで冷害を回避できた。
当時、水稲の北限だった北海道の名寄市や下川町でも木炭施用試験が成功し、食味もよくなったと喜ばれた。炭の施用によって地温が上がり、生育が早まり、根張りがよくなる。さらに微量 成分の補給や微生物の活性化にもなっていると思われる。瑞穂の国といわれる日本で、もっと炭の効用が探求されていいのではないだろうか。中国や東南アジアの食糧問題にも寄与する技術である。
(新聞「農民」2002.4.29・5.6付)
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[2002年5月]
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