え!「とぎ汁が環境破壊の帝王」?無洗米の誇大宣伝検証米を研がないでご飯が炊ける便利さから、普及し始めている「無洗米」。全国無洗米協会などの業界は、さらに販売を伸ばそうと、「米のとぎ汁が出ないので環境にやさしい」と大々的に宣伝しています。しかし、とぎ汁が「環境破壊の帝王」というにいたっては、行き過ぎた誇大宣伝と言わざるをえません。
家庭排水の環境への影響とはなぜ、米のとぎ汁が水質汚染の最大原因なのか? 全国無洗米協会に問い合せると、「一合(百五十グラム)の米を研ぐと大さじ一杯(約六グラム)のヌカが出る。米の消費量が一千万トンだとすると、四十万トンのヌカが下水に捨てられている」という答が返ってきました。続けて「海や川の汚染原因の七〇%は家庭排水で、その半分は台所排水。台所排水の大部分がとぎ汁で、四十万トンものヌカが川や海の底にヘドロとなって堆積している。しかも、とぎ汁に含まれる大量のリンや窒素は下水処理してもほとんど除去できず、アオコや赤潮の原因になっている環境破壊の帝王だ」。 この説明は本当なのか? 下水処理について東京都環境局広域監視課に聞きました。担当者は「窒素やリンは完全には除去できていないが、『ほとんど除去できない』ということはない。また全体で見て、米のとぎ汁が河川の汚染の最大原因ということはない」ときっぱり。そのうえで「環境のために、できるだけ植木や畑にまいてもらうようお願いしている」という話。 さらに、家庭排水の環境への影響については、祖先からつちかってきた食文化を掘り起こし、未来に伝えていこうと活動している「日本の伝統食を考える会」が、専門家に依頼した調査結果があります(表)。これは「とぎ汁公害」の真偽を確かめようと、ある四人家族の一日の排水の汚れを追跡調査したものですが、表からわかるとおり、家庭排水に占める米のとぎ汁の比率はごくわずかで、けっして「ワースト一」といえるものではありません。
「もともと業界では『無洗米はまずい。これでは売れない』で終わっていた。ところが生協が扱うようになり、テレビも宣伝したことから『とぎ汁公害論』が消費者の間に広がった」と語るのは、東京・府中市で「天地米店」を営む小澤量 さん。小澤さんは、「要するに、販売するために無理矢理作り出した議論だ」と、「とぎ汁公害論」を批判します。 無洗米の生産量は昨年が三十五万トン、今年は五十五万トンを超える勢い。「環境にやさしい」を錦の御旗にして、「米事業が低迷した生協陣営が、若年主婦層を顧客化するなどして供給数量の拡大に成功」(「商経アドバイス」〇一年九月三日)したことから、大手量販店も扱うようになりました。
秘密主義と特許をめぐる争い誇大宣伝とともにうさん臭さを感じさせるのは、無洗米製造装置を販売する企業の徹底した秘密主義と特許をめぐる争い。業界で圧倒的なシェアをもつ東洋精米機製作所の“ヌカでヌカをとる”という「BG無洗米システム」は、製造工程をいっさい公開していません。同社は、無洗米装置を売るのではなく貸し出す契約にして、鍵付きの隔離部屋に設置し、米卸など導入業者にはいっさい手を触れさせずに自社の社員がメンテナンスを行い、メンテナンス料を徴収しています。こうして徹底的に製造方法を隠す一方で同社は、同業他社を「特許権が侵害された」として裁判に訴えています。東洋精米機製作所の社長で、全国無洗米協会の名誉会長を兼ねる雑賀慶二氏は講演で、紀淡海峡の汚濁を目の当たりにして無洗米の開発を決意したと語り、「目標を達成するにはすべての米を無洗米に替えてしまう必要がある」と話しています。 しかし、もし本当に水質浄化が目的ならば、技術をオープンにして開発を推し進めるべきではないでしょうか。それをしないのは結局、儲け主義を覆い隠す方便に過ぎないことを物語っています。 ファーストフードに始まって、レトルト食品や冷凍食品、そして無洗米。便利さと交換で、食と食文化を一部の企業に握られつつある今の日本。「最後は、消費者がいい加減なものを食べさせられることになる」と、小澤さんは語っていました。
(新聞「農民」2002.4.22付)
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[2002年4月]
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