輸入ショウガが全農ちばのブランドで「中国産」の表示を隠し流通悪びれない出荷業者
雪印食品の牛肉偽装事件に始まり、ミニトマト、豚肉、全農チキンフーズの鶏肉と、偽装食品が次々と明るみに出て、大きな社会問題になっています。そんな折りも折り、中国産の近江ショウガが、原産地の表示のないまま「JA全農ちば」扱いで、堂々と市場で取引されていたことが本紙の調べで明らかになりました。
中国産を千葉経済連の箱でこのショウガが取引されていたのは、東京・築地の中央卸売市場。二月二十八日、市場で四キロ詰めの箱の中をのぞくと、プーンと薬品の臭いが鼻を突きます。きれいに洗われたショウガは、バラの状態で詰められています。「これは中国産でしょう」と聞くと、市場の労働者は「ええ、そうですよ」とあっさり認めます。 しかし箱のどこを見ても、「中国産」の文字はありません。あるのは「千葉県経済連」と「近江生姜」の文字だけです。 千葉県経済連(現・JA全農ちば)はこれをどう説明するのか。 JA全農ちばの福冨敏明・東京青果事務所長は当初(三月一日)、「トラブルがあってはまずいので、業者には箱に経済連の名称は入れないようにいってある」というばかりです。 それがいつごろなのか、トラブルとは何かを聞いても、「段ボール担当ではないので」「集荷推進の担当者にまかせているので…」と煮えきりません。
道義的責任にかかわる問題結局、JA全農ちばの正式コメントは「調べた上で、後日」ということに。ただ、その日(一日)に市場に行ってみると、前日に取材の趣旨を伝えていたせいか、箱は「中国産」と印刷したものに変わっていました。そして、その後日(五日)。全農ちばの見解はこうでした。 「千葉県経済連の名が入った箱は、古いことは分からないが、いまは業者が独自に作っている。(箱の中身が)中国産ショウガということは承知していたが、業者が農業をやっていた当時からの付き合いがあって、切れずにやってしまった」(福冨氏) だから「(全農ちばには)道義的責任がある」ことは認めざるを得ませんでした。 が、同時に「JAS法には触れないと判断している」「熊本で韓国産を混ぜて、産地名を偽って出したミニトマトの場合とは違う」「セリ人は、中国産だと知っていた」と、弁解するのも忘れません。 JAS法うんぬんをいうのなら、一九九九年七月の改正以前から、ショウガは原産地表示が義務付けられていた青果物の九品目の中に入っています。その精神を貫くならば、流通段階でもきちんと表示するのが普通の感覚というべきでしょう。 福冨氏も「業者には産地表示はしなさいよ、といってきた」といいます。
国産示すバーコードで流通しかし、千葉県東葛飾郡にあるこの業者・A商事の工場(出荷場)では、「特選 JA全農ちば」の箱に、パックしたショウガが詰められ、いくつかの市場に送られていました。そのパックに張ったシールには「生鮮しょうが」とあるだけで、中国産であることはどこにも表示されていません。それどころか、シールについたバーコードの数字の頭は49。これこそ、「国産」であることを示すものです。この「パック生姜」が店頭に並んだとき、消費者はどう判断できるのか。こうした問題を抱えているのに、全農ちばがこれを事実上見逃してきたのはなぜでしょう。 全農ちばがA商事のショウガを取り扱った量は、二〇〇〇年度で約千トン。経済連には、自分のところを通して市場へ出荷した場合は、一・七%の出荷奨励金が入る仕組みになっています。このウマミを見逃す手はない、というのはうがち過ぎでしょうか。 みずからに「道義的責任はある」といいながら、全農ちばは結局、この業者を切り捨てることで終止符を打とうとしています。「三月一日から、この業者との取引をやめました。誤解を受けたらまずいので」と福冨氏。本紙の動きに対して打った手、であることは間違いないでしょう。それにしても、利がある間は「昔からの付き合いがある」から産地表示を見逃すが、少しでも火の粉が振りかかるようなら、たとえ「昔からの付き合い」でも有無をいわさず切り捨てる。そんな全農ちばの一端を見せつけられました。
A商事がパックに張ったシール。右のシールには「中国産」の表示はありません。「全農ちば」の箱に詰められて、トラックに積み込まれていました。
暴落のなか輸入促進とは全農(全国農業協同組合連合会)は、農民の組合員でつくっている組織です。国内の農業を発展させ、農民の生活を守るのが本来の役割のはずです。なのに逆に、国内生産を圧迫し、農民を苦しめている輸入農産物の販売促進に、「経済連・全農」のブランドをつけて手を貸す。しかも原産地は隠したまま。その責任は小さくありません。実際、ショウガの輸入量は、九〇年に四千三百七十トンだったのが、二〇〇一年には四万九千九百九十四トン(うち中国が九七%)と、十一倍以上の増え方です。 その結果、国内のショウガ生産者価格を圧迫し、九七年に三千三百六十円(十キロ)だったのが、二〇〇一年には二千四百八十六円と、二六%も下落しています。
悪びれない出荷業者「5年前やそこらから…」と卸売会社千葉県東葛飾郡に工場を持つA商事は、「ショウガを輸入するようになってから、経済連の箱でずーっとやってきた。農協の組合員だから。いまは自分で段ボール屋につくらせているが、最初のうちは農協から買っていた。いまでもJA経由で市場に出荷している。だけど、経済連には何の指導も受けたことはない」とまったく悪びれません。全農ちばから絶縁状を突きつけられる直前のことです。ただ、二月の下旬ころになると、あちこちの市場から「産地表示をきちんとしてくれ」「千葉県経済連の表記ははずすように」といってきた、といいます。それでも三月一日に訪ねた工場では、「特選 JA全農ちば」と印刷した段ボールに、「生鮮しょうが」のラベルを張ったパック詰めのショウガが次々と梱包され、トラックに積まれていきました。もちろん「中国産」の表示はありません。そこではショウガを洗ったり、箱に詰めたり、トラックに積んだり、十数人が働いていました。 「中国産の表示を入れるようにしているが、これまで使っていた箱やラベルが残っており、それを使わないともったいないので……」(代表取締役) こうして、この日も中国産の表示がない「特選 JA全農ちば」の「パック生姜」が、全農ちば扱いで各地の市場に送られていきました。 こうした流通のあり方を、市場ではどうみているのでしょうか。この商品を取り扱っている卸売会社に聞いてみました。 「なにも(箱の)中身が中国産だということを隠しているわけではないんです。売る人、買う人はみんな知っている。いつからやっているか? 月日までは分からないが、五年前やそこらじゃあないでしょう」 と、あまり意に介しません。 だけど、ある仲卸の店主は、「この不況のうえに、牛肉偽装騒ぎで野菜も売れなくなった。売り上げは昨年の六〜七割だ。プロの目で市場がきちんとチェックしていかないと、消費者の信用を失い、野菜離れに拍車をかけることになる」と心配します。 また、別の卸売会社の幹部は「出荷団体が責任を負うのは当たり前。知らないで(名前を)使わせることはありえない。市場の社会的責任も問われる事態だ」と、厳しく指摘していました。
(新聞「農民」2002.3.18付)
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[2002年3月]
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