「農民」記事データベース20020304-529-12

ファインダーのむこう

“畑で働く姿に励まされて”

並木すみ江写真集「拝啓 お姑(かあ)さま」


 二十世紀をほぼ丸ごと生きた女性農民の、その晩年が写真集になりました。作者は東京・青梅市河辺の並木すみ江さん(52)。お姑さんの日常を切りとったこの作品は、嫁・姑の絆を結ぶ記録ともなりました。

 “ズンときた”

 散らかった部屋のコタツの脇に、死んだように仰向けに寝ころんだ母(姑)フクさん。その光景にすみ江さんは一瞬、息をのみました。

 「一人暮らしそのものを見たという感じで、ズンときたんです。嫁として、私はこれでいいのか、と。ほんとうに申し訳なく思えたんです」。その一枚が、フクさんとファインダーをとおして向き合う原点になった、といいます。

 すみ江さんが結婚したのは二十歳のとき。夫はサラリーマンでしたが、嫁いだ先は農家でした。フクさんは、この結婚に反対します。「家の格が違う」と。結婚前に遊びにいったときも、いま思えばなぜそうなったのかわかりませんが、泣きながら帰った記憶が鮮明です。

 八年間のフクさんたちとの同居の後、子どもの学校の関係で世帯を分けます。ふたたびフクさんとのかかわりが密になるのは、おじいちゃんが亡くなってからでした。

 一人になったフクさんのことが心配で通うようになって、カメラ好きのすみ江さんはレンズを向けるようになります。日常のなかに被写体を探して撮っていたすみ江さんにしてみれば、自然の流れでした。ところが……。

 「カメラを向けている私に対しての、目がきつかったですね。こんなふうに私を見ているんだと驚いたんですよ。明治と昭和の生まれですから、そのへんのギャップなんでしょうかね」

 そんな関係も、写真をとりつづけるなかで、フクさんは昔話をよくするようになります。お茶をのみながら、すみ江さんはもっぱら聞く役目です。

 10年間を胸に

 フクさんは八十歳を超えても、元気なときは草取りや種まき、水をやったり、作物を収穫したりの生活です。「体が動くうちは畑に精を出す姿には励まされました」と、すみ江さん。

 そして約十年。フクさんの臨終の場面をフィルムに焼き付ける日がやってきます。九十三歳でした。

 「カメラを向けられているということで、お母さんも私を意識するし、私もお母さんを意識します。そういう形で私たちは嫁・姑の関係を修復していたんでしょうね」。

 フクさんはある日、ぽつりといいました。「いい嫁だ。私は幸せだ」。すみ江さんは、そんなお姑さんのことばを胸に、いまは夫の農作業姿を撮っています。

(石部 傑)

 

 並木すみ江写真集『拝啓 お姑(かあ)さま』。発行=TKプレスセンター(03―3623―9971)、定価千五百円。日本リアリズム写真集団青梅支部所属

(新聞「農民」2002.3.4付)
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2002年3月

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