どか雪
小日向(こひなた)みちぞう
朝方(あさがた) 薄日模様の、アノラック姿の天は
昼早々に、もう お日さまお負って
すっぽり 錆(さび)色のマント被った、
そうかあ…この一面の盲目(めしい)四方は
はや 止めどもない、白い直向(ひたむ)き
たちまちに、空は消され 地面(じべた)も失(う)せて
…とうとう天底が破(やぶ)けたんだ
黒い夜空に 風は「そよ」とも吹かず
何処(ど)っか、からか 微(かす)かな耳鳴り
…あるいは 上蔟(ぞく)した蚕の、繭組む気配(けはい)か
ひたひたと 唯ずんずんと
夜通しに、重石(おもし)重ね続ける 夜来の雪、
夜明け、戸口を開(あ)ければ ずんずら、腰(こし)っ丈
向うの公道でも 山のような雪に、除雪ブルさん 呻き声をあげていて
※
いやあ…冬将軍め!農山村(むらむら)束(たば)にしての どん底の季節落し、
でもだーどん底の底に どん底はなく
どんなに「どか雪」でだって 次は早春(はる)
今日が、例(たと)え 蟹肢(がにまた)・かんじき《元は漢字・木偏に累》足(あし)の縒(よ)れ道(みち)だって
一足(ひとあし)ひと足、心底(そこ)踏(ふ)ん込(ご)み 新雪途(あうと)を漕ぐか
〈元(もと)もと 命の素の「いのち」なんか 百姓 以外は どんな者(もん)でも創(つく)れねえんだから〉
(注)新雪途(あうと)=新雪どっかりの道
小日向みちぞう
詩人会議会員
新潟県妙高村在住
82歳、農業
詩集『過疎地余聞』
(新聞「農民」2002.1.14付)
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