穴――納税猶予――
武力也(詩人会議会員 千葉県船橋市在住)
千葉県船橋市在住の武力也さん(詩人会議会員)から寄せられた詩を紹介します。武力也さんからは詩とともに、「この詩は忘年会で朗読するために作りましたので、最後の方は、忘年会で鍋を突ついているテーブルを意識しています。これから美味しくなる鍋も、野菜がないと始まりません。農家のみなさん、どうぞ日本中のみんなに、おいしい、おいしい鍋を食べさせてください」との覚書も一緒に寄せられました。
カブの原産地はアフガニスタンのカブールだ とは
ふるさと思いの カブたちのこじつけですが
ニンジンもタマネギも原産地はアフガニスタン
ニンジンやサトイモが特産の
船橋の畑と同じで
土の飛ぶアフガニスタンの畑も
葉物より土に成るものがいい
アフガニスタンと船橋の畑は兄弟
兄弟の片方では戦争があり
畑に地雷の穴がある
船橋のカブたちは
アフガニスタンのカブたちを心配でたまらなかったが
それ所じゃない
船橋の畑にも
地雷より大きな穴があいている
国税庁が囲う物納という穴だ
農地を農地として相続すると
納税猶予の制度で相続税は免除されるが
政府はこれが気に入らない
今でもこの制度が適用されない家や作業場の土地は
高額の税になるから畑で物納するものが多い
国税庁は
物納させた畑を
「何人も入るべからず」と囲う
ほったらかしだから畑はすぐ草になる
沖縄の米軍基地さえ耕作はさせる
草のまま放っておくなら
作らせたっていいではないか
沖縄の米軍基地さえ耕作はさせる
都市近郊の黒々とした畑
物納と言う名の穴
それは空爆や地雷の穴と違わない
野菜だけでない
農民の命も奪う
納税猶予
この制度があるからまだいいが
政府の狙い通りになった畑を空からみれば
月のクレーターのように穴だらけに見えるだろう
野菜の願いはただ一つ
おいしく食べてもらいたい
おいしいよ とニッコリしてもらえたら
野菜にとってこれ以上の喜びはない
どうぞ私たちを食べてください
物納した畑の穴
国税庁が囲う畑の穴から運よく逃れ
今日 みなさんの前に並ぶことのできた
幸運な野菜を噛みしめてください
(新聞「農民」2001.12.3付)
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