「農民」記事データベース20011203-519-09

安い農産物の向こう側

タイの農村はいま

山本 博史


自由市場の中の米価政策

 通常の年であればすでに乾期入りして、米の収穫が始まっているのですが、今年のタイは半月遅れの十一月中旬に、ようやく雨期明け宣言がありました。しかし、チャオプラヤ川の上流域の洪水はこれから中部平原に流れつき、まだしばらくは稲刈り作業に着手できない状況です。

 タイ米は、国内でも、輸出市場でも、ごくわずかの政府間貿易を除き、ほとんどが民間業者の取り扱いで、徹底した自由市場といわれています。しかし実際には政府の介入も見られます。

 輸出競争が激化する前は、国内米価より高い価格で輸出できたため、ライス・プレミアムという輸出課徴金をとることができました。一九五〇年から開始されたこの制度では、政府が徴収した資金が貧困者への低価格米供給に使われていました。七四年には農民援助基金が設立され、これにプールされて農業政策に活用されました。八六年のプレミアム廃止後も現在まで、この基金は農協の米集荷資金や米倉庫建設資金の低利融資などに使われています。

 一九七八年から八五年まで、タイ政府は、生産費をまかなえる米価実現を目的に「政府指導価格」を公表していました。しかし、政府の買い上げは少なく、精米業者にラジオなどで遵守を指導する程度で実効性はありませんでした。そのとばっちりを受けたのが農協です。八一年には政府の権限で指導価格を守らせ、市場価格より割高で買い取らせたため、それまでにない大量の米が農協に集まりました。結局これをタイ全農が多額の損失を出して安売り処分しなければならなくなったため、今もタイ全農は経営再建中のままです。

 一九八二年からは、モミ担保貸付制度がスタートします。農家が、倉にあるモミを担保に、時価の八〇%相当額を六カ月間、年利三%で融資を受けることができる制度。収穫直後の低米価時の販売を避けることができます。融資を担当する農業農協銀行が損失をうけた場合は農民援助基金から補てんされます。これは現在も継続されています。

 政府が一部直接買い上げを実施するようになったのは昨年からで、数量と価格は年ごとに決定されます。これが全国の市場価格にある程度影響するために、農民は政府に対して米価要求運動を始めました。

(新聞「農民」2001.12.3付)
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2001年12月

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