「農民」記事データベース20011119-517-09

安い農産物の向こう側

タイの農村はいま

山本 博史


 タイは世界最大の米輸出国ですが、十アールあたりの平均収量はモミで二〇〇キロと、日本の三分の一にすぎず、主な米生産国のなかでも最低ランクです。

 日本の教科書では、タイの稲作といえば「浮き稲」や「二期作」が強調されています。しかしこれは首都バンコクの北に広がるメナム・チャオプラヤのデルタを中心に、全国の水田面積のわずか六%程度の特徴です。むしろ水田面積の五五%を占める東北タイが、タイ稲作の典型です。地下に岩塩層が広がり、地下水が農業用にも生活用にも使えないこの地方は、「天水依存型農業」といわれてきました。しかし近年は森林面積の激減もあって、その雨さえ降らない干ばつ常襲地帯となっています。

 国内では、最も生産性の高い中部平原でも、一九八五年以来の急激な工業化で工業団地造成がつづき、十五年間で三割近い水田面積が減少しています。そのうえ、海岸から移動してきたエビ養殖池が塩害をもたらしています。飛行機からみると青々とした田園風景も、地上でみると耕作放棄地のカヤ野原であることも少なくありません。

 米産地での取引条件も、多くの問題を残しています。国際取引と同様、タイ国内でも「砕け米混入率」が取引基準となっていますが、農家と買取り業者との間はモミ取引であり、まだ発生していない砕け米を予測して品質が査定され、実際に精米になった時よりも低い基準で安く買い叩かれているのが実情です。「現金買取り」という取引形態も、生産者にそれ以降の流通実態や価格情報を見えにくくしています。

 国際的な米価の低迷はそのまま国内の生産者価格に反映し、「安いタイ米」は、タイの稲作農民に生産コストさえまかなえない状態をおしつけています。

 十五年前の米価暴落は、アメリカの八五年農業法を背景にした補助金つきダンピング輸出が、タイ国内での取引価格に反映したものでした。この米価暴落と三年連続の大干ばつで押し出された多数の東北タイ出身の出稼ぎ農民たちが、タイの工業化にとって不可欠の条件である「勤勉で安い労働力」を形成したのです。

(新聞「農民」2001.11.19付)
ライン

2001年11月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2001, 農民運動全国連合会