「農民」記事データベース20011001-510-03

国際シンポジウムでの発言

非同盟運動と食糧・農業問題

農民連国際部長 真嶋良孝


 第三回WTO閣僚会議の劇的な決裂

 私は日本の農民運動組織を代表して、このシンポジウムが「民族主権の尊重、平和」とともに「飢餓・貧困の解消」を重要なテーマの一つとして開かれていることを心から歓迎します。

 WTO第四回閣僚会議が間もなく開かれようとしていますが、私は一九九九年十二月、シアトルで開かれた第三回WTO閣僚会議の劇的な決裂に立ち会いました。私がシアトルで見たものは、アメリカをはじめとする十八カ国が裏舞台で進める秘密交渉から締め出された発展途上国代表の怒りでした。実際、発展途上国五十五カ国が「深い意見の相違」と「怒り」を共同で声明しました。NGOの運動とあわせて、「南」の力がWTO閣僚会議を決裂させた決定的な力でした。

 シアトルまでは、攻めているのはアメリカと多国籍企業でしたが、いまは攻められているのはアメリカと多国籍企業であり、攻めているのは発展途上国とNGOです。

 原動力となった非同盟諸国首脳会議

 その原動力になったのは、シアトルの一年前に開かれた第十二回非同盟諸国首脳会議だったと私は確信しています。この会議は、WTO・IMF体制のもとで進んでいるグローバリゼーションを「強国の利益のために弱者に市場開放を強いる」ものだと批判したうえで、「二十一世紀に向け、民主的で世界全体を代表する新しい国際経済関係を樹立する」ことを宣言し、WTO交渉に対し強い姿勢で臨む決意を表明しました。シアトルで起きた事態について、ある新聞は「アジア、アフリカ、中南米諸国の代表が自尊心を取り戻してアメリカに立ち向かった」と報道しましたが、この根底に非同盟運動の団結があったことは間違いありません。

 私たちは、二十一世紀の人類的な課題の一つは、飢餓と貧困を解消することだと考えています。そのためには、世界中のすべての国々の農業の持続的発展が不可欠です。

 しかし、WTO農業協定実施六年間の現実は、これにまったく逆行しており、WTO・IMF体制のもとで、世界中の農民たちは“トリレンマ”というべき事態に直面しています。

 世界の農民の中に勝利者は存在せず

 つまり、第一に「農業大国」といわれるアメリカやカナダの農民たちは、穀物を生産コストをはるかに下回る水準で買いたたかれ、第二に発展途上国にはこうしたダンピングによる「安い」穀物輸入の拡大と、輸出用農産物の生産が「構造調整」の名で強要されています。しかも穀物の主たる生産者は小農民であり、輸出用農産物を生産するのは巨大地主か多国籍企業です。

 そして第三に、わが日本には、野菜や果実、米の輸入が氾濫し、減反は四〇%に及んでいます。

 世界中の農民の間に「勝利者」は存在せず、巨大な多国籍企業だけが利益をむさぼるという構造がますます強まっているのです。

 さらに、最も基礎的な食糧である穀物の輸出入バランスを見ると、この十年間でアメリカなど「先進国」の純輸出量が四千九百万トンから一億二千八百万トンへと約三倍になっているのに対し、発展途上国の純輸入量は七千八百万トンから一億トンへと急増しています。一九九六年のローマ食糧サミットの宣言にもかかわらず飢餓と栄養不足の解消が見るべき成果をあげていないことの背景に、こういう事態があることは明瞭だと思います。

 食糧主権とは、すべての人々が食糧を安定的に得る基本的な権利であり、そのためには、すべての国が家族農業を基礎にして農業と農村を発展させる政策と戦略を確立する独自の権利が保障されなければなりません。

 二十一世紀に新しい国際経済秩序を

 WTOをはじめとする二十世紀型の国際秩序を打破すること、食糧主権の尊重を含めた二十一世紀にふさわしい新しい国際経済秩序を確立すること非同盟諸国がこういう方向で団結を固め、運動がいっそう大きく前進することを願ってやみません。また、その際に“南のガット”といわれるUNCTAD(国連貿易開発会議)に正当な光があてられるべきだと思います。

 私たち“北”の“南”に属する農民も、発展途上諸国と農民に背を向け、アメリカと多国籍企業にばかり面を向けている日本政府とのたたかいに力を尽くすとともに、国際連帯の運動を大いに強める決意です。

(新聞「農民」2001.10.1付)
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2001年10月

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