信州のおばあちゃんと“茶のみ”吉田文子
山の幸工房北安曇郡小谷村は、新潟に接する豪雪地です。とても料理上手なおばあちゃんがいると聞き、山田ちさとさん(69歳)を訪ねました。一昨年の秋に「深山の湯」という日帰り温泉に隣接して「道の駅」ができました。そこで「小谷の特徴のある販売品を作ってほしい」と、ちさとおばあちゃんに白羽の矢が。特産品のまいたけを使って試行錯誤を重ね、「まいたけクッキー」「まいたけかりんとう」を作りました。噛みしめると、まいたけのよい香りが口いっぱいに広がります。 お菓子作りは大得意のちさとおばあちゃん。でもおいしいまいたけのお菓子を完成させるには、四ヵ月もかかったそうです。 製品として販売するには、専門のキッチンを作り、保健所の許可を得なくてはなりません。大事に貯金しておいた年金を使って自宅を改造し、「山の幸工房」という八畳ほどのキッチンを作ったのです。こうしておばあちゃん六七歳秋からの「ビジネス」が始まりました。 近所のおばあちゃんと、毎日朝二時間ほど作業したあと、お茶を飲みます。このお茶の時間がまた、楽しいのです。ちさとおばあちゃんは、そんな話をしながら「ふ・ふ・ふ」と実に楽しそうに、夢いっぱいの少女のようにかわいらしく笑いました。「おやき」も作っていますが、春の連休中には五百個、八月はじめには、九日間で六百六十個も売れ、おばあちゃんのビジネスは好調です。
仲間と畑づくり今から七年前、小谷村では、集中豪雨による大災害がありました。道や線路、多くの家や田畑が流され、一週間もの間、交通がマヒしたのです。「生きているなかであん時が一番おっかなかったよ。電気が切れ、ニュースも聞けないから、いったいどうなっているのかも分かんなかったよ。田んぼもみんな土砂でつぶれて、足が震えて、震えて。寝ても震えが止まんなかったさー」。 それ以来、荒廃していた田んぼを仲間七人で借りて、ジャガイモや大根、野沢菜などを栽培しています。新鮮でおいしいので、道の駅に売り出すと、すぐに売り切れてしまうほどの人気です。二時間ほど畑の作業をした後は、ゆっくりお茶の時間。「ふだんは仲間でゆっくり話をするってことがないだよ。だからみんなで畑をするといいねえ。田んぼより儲かるから、今年は売り上げで日帰り旅行にも行ったよ。楽しかったなあ」。 人生を楽しむことが上手な、ちさとおばあちゃんと仲間たち。私も見習って、毎日を楽しんで、ニコニコと福のある顔になりたいと思いました。
おやき山の幸工房のレシピは“企業秘密”なので、これはちさとおばあちゃんの話に吉田がアレンジしたもの (新聞「農民」2001.9.24付)
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[2001年9月]
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