「農民」記事データベース20010924-509-06

廃ペットボトルで獣害予防

“電気柵で効果抜群”

 それはまさに「コロンブスの卵」でした。獣害から農作物を守る電気防護柵の絶縁体に廃ペットボトルを使うという、安価で効果のある装置が、長野県小県郡武石村で都市との交流を深めて農山村の活性化をめざすグループ「信州せいしゅん村」(小林一郎代表=50)が開発したのです。ワンセット二万三千円のこの装置は、県林務部も注目し全国に紹介。県内の新聞や地方テレビで報道されるとサル、イノシシ、タヌキ、アナグマ、ハクビシンなどの被害に遭っている全国各地の農家や自治体から視察、問い合わせが相次いでいます。「信州せいしゅん村」ではこれを「獣害解決柵(R)」の名で特許申請をしました。
(冨沢)


 この装置は「変圧器とコントローラーを、それぞれ二つに切った廃ペットボトルに入れてつないでシリコンで密封して絶縁と防水をほどこした」二点キットに、エナメル線(一〇〇メートル×二)、アース棒、検電器・予備のヒューズの“サービス品”がついてワンセット。それを市販の十二ボルトのバッテリー(各自用意)に接続、一方をアースに、一方を農地の周囲に張り巡らせたエナメル線につなぎ、通電します。このとき絶縁体としてこれもペットボトルを使い、それにエナメル線を巻くのがミソです。

 このエナメル線に動物が触れると、人が車のドアに触れると「ビリッ」となる時よりも強烈な静電気七千ボルトのショックが襲い、一度経験した動物は近寄らないそうで、通電は日暮れから夜明けに設定してあります。希望で二十四時間通電にすることもできます。

 問題は十二ボルトのバッテリーと、無色透明のペットボトルと支柱を必要数確保することです。設置方法は説明書にありますが、実費で地方に説明にも行くし、有料で施行もするそうです。管理のポイントは、放電防止に草をこまめに刈ること。

 村の活性化へ

 武石村は上田市から諏訪に抜ける途中にあり、美ヶ原高原の八割を占めています。コンビニはなく信号機は三つしかないけれど、決して僻地ではない普通の農村ですが、やはり農業の衰退、高齢化が進んでいました。「せいしゅん村」には農家や労働者、自営業者、それに村外の大学教授、研究者ら三十代から八十代の「村民」十五人がいて、観光、農業体験など農業を中心にしての村の活性化をめざす「新ふるさと創り」活動をしています。

 「獣害解決柵」

 “むらおさ”の小林さんは建設業を営む兼業農家。武石村の余里という集落にある農道約一・三キロメートル沿いの荒れた農地を活性化し、都会の人々との交流をしようと「私の花道」運動を呼びかけましたが、返ってきたのは「趣旨はいいがイノシシやシカに作物をやられて農業をやめたい」という声でした。

 実際、「猪子道田(いこじだ)」の地名がある谷あいには、イノシシがソバ畑の中を通り、有刺鉄線をものともせず田んぼに侵入して稲穂をなぎ倒した跡があります。

 その深刻さに小林さんは「せいしゅん村」村民の電子科学研究者で発明家でもある滝沢彰さん(上田市在住)と共同で、利用者のために「安く持続的で効果のある」電気柵の研究を始めました。それには有効な絶縁体を見つけるのがたいへんでしたが、意外なことに使用済みで捨てられるだけのペットボトルがピッタリだったのです。

 余里の約八十アールの畑で大根や馬鈴薯などを作る北沢修爾さん(72)は「これまで有刺鉄線や網で囲い、美容室からもらった女性の髪の毛やビールの空き缶をぶら下げたが効かなかった。今年六月下旬にこれを設置したがそれから全然被害がない」と喜んでいます。

 「信州せいしゅん村」では、このキットの製造を村の福祉企業センターに委託。所長の児玉裕二さんは「この不景気に高齢者や障害者ができる仕事で、ありがたいですね」と話しています。

 画期的なこの電気防護柵の問い合わせは(1)信州せいしゅん村(電話〇二六八・八五・三九三九)(2)総発売元(有)サンタセ(電話〇三・五八三〇・二〇六六)

(新聞「農民」2001.9.24付)
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2001年9月

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