納税猶予制度継続強化の奮闘を田中 豊(農民組合大阪府連合会事務局長)
農地の相続税・贈与税納税猶予制度廃止の動きに反対する運動は、重要な局面を迎えています。 この十二月に政府税制調査会が提出する平成十四年度税制改正答申にこれが盛り込まれるおそれがあり、「納税猶予制度の見直し(廃止)」を課題として答申させないことが当面する運動の目標です。
全国的な取り組みを農民連としてこの問題に取り組むにあたっては、全国的な問題だということを強調したいと思います。相続税の納税猶予は、北海道から沖縄まで全国で十三万人(平成十年末)を超す農家が適用を受け、猶予税額は五兆三千億円近くになっています。贈与税の納税猶予は十一万人弱(同)で、とりわけ北海道や東北に適用者が多いのが特徴です。東京や大阪、愛知など三大都市圏だけではありません。全国でこの問題に直面する農家を視野に入れ、農民連や新聞「農民」の拡大を追求するなかで、全国規模で運動に取り組むことをまず訴えたいと思います。相続は、農家であれば一生に一度かならず経験します。そしてその時、宅地並み評価・課税のもとで、相続税をどうやって納めるかという深刻な問題に直面する農家がたくさんいます。実例でいいますと、これは大阪の農家のほぼ平均的な例ですが、農地が八十アール弱、宅地が十アール、その他の遺産を合わせて五億円の財産評価になる農家の場合、納税猶予を受けなければ一億円を超す相続税です。しかし農地をすべて納税猶予の対象にすれば当面納める相続税は五百万円弱となります。 皆さんも一度「今もし相続が起きればいくらの相続税か」を税務署に計算させてください。納税猶予制度がなければ相続税を払うのに農地を手放さなければならず、この制度の廃止は農業つぶしの復活だということがはっきりすると思います。
ビラ、署名で訴え大阪では今、廃止の動きを知らせるビラを作成し、「農地の相続税納税猶予制度の継続強化を求める請願」の署名運動に取り組んでいます。千人近い府下の農業委員と四十七農業委員会、三十の農協にビラと合わせて団体・個人署名を送り取り組みの強化を訴えています。この中では、これまでにない反応も出てきています。幾つかの農協は、組合長名の団体署名に組合長を先頭に職員全員の個人署名をつけて送ってきました。また農業委員は、自分の家族だけではなく、実行組合の仲間に呼びかけて個人署名を集め、取扱団体名に「○○実行組合」とわざわざ書いて送ってきました。納税猶予制度廃止に反対する運動が真剣に受け止められていることと、改めてこの制度の大切さを実感します。個人署名の目標は一万名で、現在三千七百名を超すところです。かなり宣伝が行き届き始めましたが、まだまだ農業委員会の職員でも「知らない」という人がおり、一層運動を広げなければなりません。もともとこの制度を政府がつくったのは、農業の収益とは無関係に農地を評価・課税するなかで、一九七四年に「収益に見合う相続税制度を」の声が大きく高まり、政府が農地を「農業投資価格」で評価し、その差額を「納税猶予」する方式を採用したものです。「納められる税制」という点からいえば、特例でも何でもありません。 農地法改正で株式会社の農地取得が認められましたが、彼らにとってこの猶予制度は「目の上のたんこぶ」です。小泉内閣は「骨太の方針」で税制改革について、「租税特別措置法は聖域なく見直す」としています。農業版の「構造改革」である経営安定対策では、四十万戸の農家以外は農政の対象から外す、国税は使わず配慮をしないとされています。「構造改革」が進められれば、相続税・贈与税納税猶予制度廃止の動きは一層顕著になるものと見なければなりません。 この制度の継続強化のために、農民連が奮闘する時です。
(新聞「農民」2001.9.24付)
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[2001年9月]
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