農民連が橋渡し役手作り醤油 ただ今熟成中千葉の大豆生産農家と醤油屋さんが手結んですごーい! 見わたすかぎりの大豆畑。十五ヘクタールあるそうです。ここは千葉県野田市。この畑の大豆が、農民連の橋渡しで県内の醤油屋さん「宮醤油店」で、天然醸造の醤油に仕込まれています。大地に蒔かれた一粒の種が、大豆を実らせ、大樽に仕込まれて、醤油となって食卓に――農家から醤油職人へ、大豆のリレーで、手作りのおいしい醤油がいま熟成中です。(満川)
千葉県野田市は、東京から三十kmほど離れた畑作が主力の近郊農業地帯。六人の農家が集まる「野田市東部営農組合」は、減反田を一ヵ所に集め、年ごとに転換させていくブロックローテーションで、小麦・大麦・大豆をあわせて八十ヘクタール耕作するほか、稲の収穫作業などを受託しています。今年一月、千葉農民連に団体加盟しました。
大豆作りもっと広げたい胸丈まで育った大豆畑のなかで、営農組合員の石山光男さん(59)は言います。「ブロックローテーションで毎年、田畑を転換していけるから、連作障害もなく雑草も害虫も少なくてすむんだよ。大豆作のあとは土も良くなるから、最近は集団転作に農地を出す農家にも大豆は人気があってね」。営農組合を設立して今年で十七年。組合長の山崎菊司さん(62)は、「長続きしたのは、大勢でやってきた勢いだね。朝、体がつらくても、今日はあの作業があるな、皆が困るなと思うとがんばれるんだ」と言います。作業日誌、機械使用日誌をきっちり記帳し、時給計算で誰もが納得いくように報酬が配分されていることも長続きの秘訣です。 大きな倉庫には、米の乾燥機のほか、二台の四十馬力のトラクターなど、大きな農業機械がズラリ。「後継者がいなくて困ってんだよ」という山崎さんの言葉とは裏腹に、強い生産意欲が感じられます。国や県、野田市などから受けられる補助金はしっかり受け、ブロックローテーションの確立や、日誌の事務処理には野田市農政課も大きな役割を果たしています。石山さんは「こうやって営農組合が耕作を請け負えるから、農地を遊ばせずにすむしね」と目を細めました。 しかし、目下の悩みは農産物価格の暴落です。「もっと面積を広げていきたい。だから農民連に入ってこういう販路が広がったのは、ホントによかったよ」と山崎さんは言います。 この畑の大豆が、今年四月から、県内の有限会社宮醤油店(屋号「タマサ醤油」、富津市)で、醤油に仕込まれています。
直売所の開店がきっかけ千葉農民連と宮醤油との出会いは昨年のこと。木更津・袖ヶ浦の農民組合が中心になって直売所を開店し、品ぞろえを増やすためにも「大豆を作って醤油でも作ってもらおうか」と地元の宮醤油を訪ねたのが、すべての始まりでした。ところが当時、宮醤油は油を搾った後に残る脱脂加工大豆しか使用しておらず、しかも一樽仕込むには大豆が足りない。話は県連に持ち込まれ、書記長の小倉毅さんも足を運びました。宮醤油の社長宮正蔵さん(67)は、いきさつをこう話します。「あの時は、蒸し器が丸大豆を蒸すようにはなってなくて、一度は断ったんです。ところがその直後、その蒸し器を交換することになって、丸大豆醤油も作れるように工夫して新調したんだよ。そしたら丸大豆醤油を作ってみたくてねぇ。地元の大豆を探してた時に小倉さんが再訪してくれたんですよ」。 いま、醤油業界は大手メーカーがもっとも幅を利かせる業界です。醸造期間を人工的に短縮した大量生産の醤油が出回るなかで、宮醤油は木の大樽に一年寝かせる天然醸造、無添加の手作りを守っています。丸大豆だと熟成期間は二年もかかります。販売は、問屋さん・小売り屋さんには一切卸さず、首都圏コープなど生協出荷と直売のみ。「生産者から消費者へ直接届ける。より良いものをより安く」をモットーに経営を守ってきました。宮さんは「お客さんが離れていかないおいしい醤油作りが、経営を守る何よりもの保障です」と熱意をこめて話します。
ぜひ大樽を見にきて下さい江戸・天保の創業当時から百六十年守ってきた蔵は、醤油の香りでいっぱい。熟成中の野田産大豆のもろみを、大樽から一口すくって食べると、大豆のうまみが口いっぱいに広がります。宮さんは「富津は、海風が吹いて湿度が高く、一年じゅう温暖。水もきれいで、醤油作りにぴったりなんですよ」と、子どもを見守るように、もろみを見つめました。そして「農民連の皆さん、ぜひ樽を見にきてください」と、メッセージを寄せました。野田の大豆二十三俵と、木更津、袖ヶ浦の農民組合の大豆二俵半も加えられて仕込まれた大樽は、二年後の二〇〇三年の春、醤油に搾られます。
(新聞「農民」2001.9.24付)
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[2001年9月]
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